冬の花は牡丹に散る

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 美芳は自分を責めた。 『そう頑なだと、後で知らんからな。どうなっても自業自得と思われよ?』  ねっとりとした狐目が脳裏をよぎる。 ――自業自得とは、そういう事か。  どこかでそう納得する自分に失笑する。  美芳は大切にしている宝石箱を手にした。赤い箱には美しい牡丹が咲いている。蓋を開けて中に手を入れる。取り出したのは幼い頃にこの庭で辰吉と見つけた綺麗な白い石。 『おじょうさんのように白くてきれいな石ですね』  そう言って笑う辰吉の顔を今もなお鮮明に覚えている。胸が苦しい。どうしようもなく痛いほどに苦しい。  けれど、幼い頃に大切だったものは美芳の背には重すぎるほど大きくなっていた。美芳は胸の合わせに指を差し入れ守り袋を出すと、そこに白い宝石をそっと入れる。 ――わたくしが牡丹酒造を守らなくては。  この責任は自分にあると美芳は考えて、一人静かに松野屋に向かった。  松野屋で若旦那と話しを付けた美芳はその帰り、辰吉の事を頭に思い浮かべていた。  いつも元気で逞しく、笑うと左側に笑窪が出来る。お嬢さん――と言う声が好き。少しあどけなさの残る顔が仕事をする時に真剣な眼差しになるのも好き――  美芳は部屋に戻らず、いつの間にか庭にいた。  牡丹はそろそろその首を落とす事だろう。雪に沈み、綿雪をその身に被せ、春になれば土へと還る。そしてまた雪の舞う頃、静かな庭に彩りを添えるのだ。  美芳は牡丹の首にそっと指を差し入れる。ゆっくりと顔を近付け、牡丹と間近で対面する。 ――これはわたくしか、それとも辰吉か。  すん、と美芳の鼻を鳴らす鈴のような音色が雪の上に溶けた。  続いて、くしゃり、と音がする。真っ赤な牡丹の中に美芳の顔がある。  世界はいっとき静止した。風さえぴたりと止まっている。 「ふああぁ」  艶かしい美芳の矯声が熱い吐息とともに漏れると白い息が舞った。 ――これは牡丹ではない。わたくしが好いた辰吉の顔。  牡丹に埋めたその顔を上げる美芳の桃色の唇には黄色の花粉が散っている。それをちろりと妖艶な赤い花弁が舐め取った。
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