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「誰にも教えるつもりはなーい」
「はぁ!?ふざけてらっしゃるんですか!」
「坊ちゃん…大臣ですよ」
む、と煙草を咥えたまま眉を寄せたのは、
巨大な書斎に置かれた石造の机に身を構えた
赤いゴスロリの幼女。
西園寺カレン、その名は机の上に置かれたプレートに刻まれている。
「人間がいるということが不正規のルートで生徒に知らされた場合、人間は捕食対象になりかねません!」
千秋が机から数メートル離れたところで叫ぶ。
「なにい?あたしこの前すっごくすっごく頑張ってあの子のこと誘導してあげたのにぃ。
あなた忘れたのお?」
「…その件に関しては感謝しております」
高砂颯喜を架空のパーティーに招いた時、とある有名企業の令嬢という設定で高砂を誘導するように手伝いを頼んだ。対価はもちろん血だ。
「でしょお?だったらうちの運営にも協力してよ。人間を連れて来るなんて話、政府が認めくれるわけないでしょお。それなのにあたし、無理言って極秘計画って名前で通してもらったんだから。感謝してよねえ」
「だとしても!計画は大学校の全面協力が前提条件で、それ無しではまともに対象が動けません!」
「そもそも彼、高砂颯喜君、何をしに来たって言うの?あなた、ここ最近彼を仕留めるって躍起になってたはずじゃない。それをどういう風の吹き回しで味方に引き入れたのよ」
「だから…あの子供はただの魔女の子ではありません。外黎煙から宝石を生み出し、さらにあの血には強力な変身作用がある最上級1型なのです。
それだけじゃない、人間でありながら霊界でシステムエラーを起こすことなく活動できる。かつて我々が収集していた食料が再びこの地に戻ってくる」
「なるほどね。つまり彼が畑になって、みんなのために実を落としてくれると。
でもそれとあなたの復讐は別の話じゃない」
「…そうです。魔女の一族の駆除は私の私利私欲を満たすためのもの…しかし、1型の魔女の子は我々全市民の利益を満たします」
「私益と公益、どちらを取るのかはあなた次第よ。誰も彼の能力には気がついてないんだから」
「…私のために、高砂颯喜に関する情報を秘匿にして頂いていると?」
「それは大きな勘違いね。私はおじさまに怒られるのが一番嫌なの。おじさまは大学校の銀行みたいなものなんだから…
もう二度と牢獄入りはごめんなの!
わかったら、計画は完璧に進めてさっさとあの子の処分をして。あの子が死ぬなり人間界に帰郷するなりして霊界から消えてさえくれれば、この計画は完璧になかったことにできるんだから」
「…承知いたしました」
「ああ、そうそう。1型の子供がいるなんてことが高官の耳に入りでもしたら、ぶち殺されるのはあたしだってこと…」
「はい、よく理解しています。ご協力感謝申し上げます」
「わかれば良いの。人間の存在はここだけの秘密。絶対に他の誰にも知られないようにすること!」
ばたんと扉を閉めて息をついた。
竹内は千秋を煽るように笑顔で呟いた。
「果たして、人間を鍛錬された獣達から守りながらその正体を隠し通し、松門寺家の解体という未曾有の大計画を達成することなど可能なのでしょうか」
「…やってみなきゃわからないだろ」
「坊ちゃんらしくありませんね。
しかしそれもまた一興、お手並み拝見です」
「さっさと颯喜を連れてこい。奴に状況の説明を…」
竹内は手元の端末で地図を開いた。
「おや、おかしいですね」
「何が」
「採血機と零式銃が不活性化されています。ドッグタグによれば、位置は…仮眠室です」
「何かあったのか」
「近くにドッグタグの反応があります。
同室研究生の…ノア・ミシュカ。
もう同じベッドを共にするほどの仲になったのでしょうか」
竹内が笑顔で千秋に聞く。
「お前の入れ知恵だろうが!」
……
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