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カレンは扉を開けた。
「沈められる?…何を言ってるのかわからないけど、あなたは千秋様の特別な招待客なんだし、怖がることないでしょう。きっと最高のおもてなしをしてくださるから、楽しめばいいの」
扉の中へ入るカレンに続く。
「そうか!カレンちゃんが言うなら間違いない!はず…」
中には、エレベーターがあった。
「ここまで来てエレベーターか。変わってるなあ」
カレンはエレベーターのボタンを押し、
まもなく扉が左右に開く。
「彼は高いところが好きみたいよ」
エレベーターの中には、プラネタリウムのように全面に星屑をイメージしたライトが埋め込まれている。
エレベーターが止まると、そこにまた一つだけ扉がある。
「ここ。あなたの手首についてるチップでその扉が開くはず」
俺は恐る恐るエレベーターを降りた。
扉には《千秋》と刻まれた金版がある。
「中にいるかは、わからないんだよね?」
カレンはため息をついた。
「早く入っちゃいなさいよ。十中八九留守だろうけど、竹内さんくらいはいるかもね。
私はホールに戻ってカード集めでもしてくる」
カレンがエレベーターのボタンを押す前に、思わず呼び止めた。
「あ、あのカレンちゃん!」
「まだ何か?」
「その…カードのことなんだけど、これって一体何の意味があるのかな」
会場では、貴族達が名刺のようなカードを贈りあっていた。そして俺も、タイムセールで値引きされた商品のように群がられ、同じようなカードを山ほど押し付けられた。
「それはね…ああ、そうだ。爺やがあなたがホームで落としたのを拾って集めてきてくれたの。渡し忘れてたからあげる」
カレンがくれたのは、丁寧に紙紐で括られたカードの束だ。
「名刺がこんなに?」
「あのね…それは名刺じゃないの。チップと同じようなもの。現金をそのカードに交換して、会場で会った人に渡すのよ」
「なんでそんなカードが必要なの?
やっぱり貴族の文化?」
カレンはふっと笑う。
「賭けよ。そのカードの枚数が、あなたに賭けられた金額を表してるの」
「賭け?」
「そう、このパーティーでは、最もチップを貰った参加者を《千秋楽》と呼んで、
最もチップが少なかった人は千秋楽、つまりトップに手持ちのカードを没収されて、パーティーを追い出されるの。
千秋楽に賭けておけば次のパーティーで手持ちのカードを増やしてもらえるし、
最下位に賭けてしまったらカードはゼロから集め直し。
最後にもらったカードの合計の多い人ほど順位が上がって、順位によってその人が経営する会社への待遇が変わるの」
「仕組みはわかったけど、何でそんなことする必要が?」
「人気投票みたいなものなの。
人気のない参加者は松風グループにいる資格はない。
千秋様を見ていれば分かるでしょう?本人のカリスマ性と人を惹きつける力は企業経営能力に直結するの。
人からチップを集められなければ、どれだけ才能があったとしても松風にはいられない。」
「人気投票なんて、知名度もない俺に集まるわけ…」
カレンは俺の握るカードを見た。
「その枚数なら千秋楽も同然じゃない?
もし本当にそうなったら、私にも配当を分けてよね。」
「千秋楽になったら報酬があるってこと?」
カレンは今日一番の笑顔で頷いた。
「うん、たくさんね!
良いでしょ?お年玉だと思って」
カレンが子供らしく笑っている。
…ただ、金の話でなければもっと可愛く見えたのだろう。
「わーかったよ、金ならくれてやる」
「やった!意外といい人なのね。
万が一千秋様に会ったら、失礼のないように気をつけなさいね!
私のこと話してくれてもいいのよ、
とってもいい子で可愛いって」
「はいはい、わかったって!」
カレンはご機嫌になって、さっさとエレベーターで下へ降りて行ってしまった。
「人気投票か…」
それにしても、本当に俺がこのパーティーで人気投票一位なのか?
名前も顔も知られていないはずの俺に何故、貴族はチップを貢ぐ?
《千秋》
「人気投票とは、この坊ちゃんも趣味が悪いぞ…」
ドアノブに手をかけると、ガチャと音がして扉が開いた。
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