秘密の花園

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暗闇を走った。 唯一、タブレット端末のフラッシュライトがロック状態でも使えたことが救いだ。 部屋を越え、スクリーンが黒いままの映画館、 図書室を出た。 千秋の屋敷を出れば、長い廊下が待っている。 階段を駆け降り、ホールを探す。 何度も道を間違えながらようやく辿り着き、 扉を開けて叫んだ。 「誰か!救急車を呼べ!」 ホールは騒がしかった。 誰も俺の声など聞こえていない。 ステージの催しに気を取られているのだ。 「さあ、集計結果を発表します!第10位は…」 「誰か!」 辺りを見渡した。 確か彼女もここに戻ってきた筈だ。 「カレン!カレンちゃん」 いた。目が合い、駆け寄って訴えた。 「大変なんだ、坊ちゃんが倒れてる!早く救急車を…」 カレンは驚いた顔で俺を見た。 「ど、どういうこと?」 わかっている。すぐに理解してもらえる話ではない。 汗だくで、息もうまく吸えず、話もうまくできない。 「その格好はどうしたの? 手が真っ赤じゃない…」 思わず手を後ろに隠した。 血塗れの手を子供には見せたくない。 「それにその時計、千秋様のじゃ…」 「そう、これはそいつの腕時計… あっちは吹雪で停電してて…」 「停電?ここはずっと明るかったのよ。 それに晴れてるし…」 「え?そんな」 窓の外に綺麗な月。 「嘘だ…」 「訳がわからないわ。きちんと説明して」 「第5位は〜!」 ホールに響く司会の声。 明るい夜空。 「…どうなってんだか、俺にもわからないよ」 カレンは目を細めた。 「まさか、腕時計を盗んで…?」 疑ってるのか? 「違うんだって!これはライト代わりに借りたんだ」 カレンは、俺のポケットに突然手を入れた。 「これは?千秋様の持ち物ばかりじゃない」 千秋の持ち物を探った後、踏んでしまわないようポケットに入れたままだった。 眼鏡やハンカチ。 金属製のリングは、赤い宝石のついた指輪だった。 「それも停電のせいで…吹雪で… 真っ暗だったから…」 「停電なんてしてなかった」 「だけど…盗んでなんかないよ、そんなつもりじゃなかったんだ」 カレンは目を逸らした。 「第一位、千秋楽は…高砂颯喜様! ご登壇ください! 高砂颯喜様はいらっしゃいませんか!」 「俺だ…」 スポットライトが俺に当たる。 周りの視線が俺に集まり、 しんと静まり返る。 「スピーチよ」 カレンが、苦い顔で囁く。 「えっと…」 汗まみれで、手は血だらけで、ジャケットにも赤いシミがついている。 こんな有様でステージになんてあがったら、 俺を標的にしたフードファイトに発展しそうだ。 俺は出口を確認しながら後退りし、叫んだ。 「あ、あの…救急車!救急車呼んで! 一位は…」 近くの警備員が走ってくる。 「一位は辞退!棄権しますから!じゃあ… これ、約束してたお年玉!」 俺は例のカードの束をカレンに投げ渡し、 扉を開けて走った。 「ちょっと、私にどうしろっていうの!」 カレンが俺に悪態をついた。 だが答える暇はない。 警備員やら強そうなボディガードやらが追いかけてくる。 「待ちなさい!」 一気に会場が騒ぎ出した。 「で、では…今回の一位は棄権…とのことです! えー、まもなくカウントダウンです!」 ネットも繋がらないような辺境の地からどうやって逃げ出すというんだ。 そもそもなぜ逃げなきゃならない? 俺は松門寺千秋を救おうとしたはずだった。 目の前がチカチカする。 手に刺さった破片はまだ抜けていないみたいだ。 「5!4!3!」 そうだった、今日は12月31日、大晦日。 「はぁ、はぁ…」 「あいつを捕まえろ!」 それより、あいつは 生きているんだろうな… 「2!1!」
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