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暗転。
目の前が真っ暗になった。
2021年、1月1日
「若様」
耳がこもっている。
「時間でございます」
耳を塞ぐ。
「若様!」
目を開く。
誰かが俺を覗き込んでいる。
「…誰だ」
にっこり笑顔の美貌。
銀色の眼鏡。目尻の下の黒子。
「竹内さんか…」
掠れる声で呟くと、
竹内は胸ポケットから白いハンカチを取り出して俺の額を拭った。
「ようやくお目覚めですか」
寝ている間、よほど汗をかいていたようだ。
「…ここはどこですか」
見渡すと、大きいベッドひとつに対して有り余るスペースのある部屋。
床に紅の絨毯の上をはたはたと歩き、高い窓のカーテンを開けるメイドが数人。
竹内はハンカチを華麗に仕舞い、懐中時計を取り出して見ながら言う。
「すぐにモーニングティーをお持ちします。お召し物もご用意致しますので少々お待ちください。では」
一礼して去ろうとする竹内を呼び止める。
「何でしょう?」
俺はどもりながら頭をかく。
「記憶があんまりないんだけど、俺ってパーティーから逃げ出したんじゃなかったっけ…」
竹内は頷き、笑顔で答える。
「はい。そのことで、坊ちゃんは大変お怒りのご様子でございます」
怒ってる?俺は精一杯手当てしたって言うのに…!
竹内は俺の訴えなど耳に入れる気はさらさらない、と言うように咳払いした。
「私には如何とも…。
時間ですので、私はこれで失礼いたします」
竹内は音も無く部屋を去ってしまった。
部屋の中に残るメイドたちはちらちらとこちらの様子を伺っていたが、決して俺の味方ではないようだ。
坊ちゃんは俺にお怒りか。
全く、理不尽にも程がある。
「坊ちゃんってどこにいるんだ…」
俺はベッドから立ち上がり、部屋から出てあたりを歩き回った。
ここは、一体どこの屋敷なんだろう。
昨日いた会場じゃないのか…
「お」
あるところに、大きな扉を見つけた。
なにか重要な部屋に見える。
扉に手をかけようとすると、中から突然声が聞こえた。
「一体何をしでかしてくれたんだ!」
すごい剣幕で怒鳴る男の声だ。
坊ちゃんにしては、少ししゃがれていて老いた声。
俺は咄嗟に扉から手を離した。
この声は誰と会話しているのだろうか。
「まだそんなことを…いつになったらお前は成長してくれる。こんなものを使わないと話もできないのか!」
ガン、と何かが投げられる音。
「…そうやって黙っていれば誰かが助けてくれるとでも思っているんだろう。だが、これからは誰もお前を助けたりしない。お前が高砂颯喜の息の根を止めない限りな」
「…っ!」
俺を…殺すというのか。
なぜ?こんな俺を殺して何が解決するっていうんだ!?
「わかったなら、さっさと奴がどこにいるのか突き止めるんだ…。失敗すればその恐ろしい正体を世間に曝け出してやる。お前の地位はすぐに兄弟に奪われるだろう」
コツ、コツと足音が扉に近づいてくる。
これも悪い夢なんだと思いたい。
しかし、足がすくんで動かない。
見つかったら殺されるなんて突拍子もないシナリオがどこから湧いて出てきたんだ!
足音はどんどん近づく。
殺される?死ぬのか俺?
「…神様仏様…一生のお願いだ…!その他の色々な力のある方々…誰でもいい、俺を救え…!」
そんな呪文を唱えたところで、
何も変わらない。
扉が開いた。
杖をついた大男が、部屋の中から姿を現した。
まるで熊のような体格。
長い髭を生やし、サングラスをかけている。
「…お前は」
それが、俺を見た。
「お前は…!」
熊が俺を見るなり体を震わせる。
すると、懐から黒い何かを取り出す。
黒い穴が俺と目を合わせた
銃だ
銃を突きつけられている
「死ね!魔女の子供め!」
殺される…!
「が、あ"あ"あ"っ……」
目を見開き、
その顔が歪むのを記憶に焼き付けた
男の首が飛ぶ。
血飛沫に俺の視界は瞬間赤く染まり、
驚き、混乱のあまり不意に興奮した
膝の力をなくした俺は地面に手をつき、
絨毯を染める血に手を浸した
倒れた体の向こうに、黒い蛇がいる
それが舌を伸ばし、俺の目をじっと見て言った
【目を覚ましたな…餓鬼畜生め】
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