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「ありあとーざいあした〜」
これはコンビニの店員のバイトをしている深夜2時の俺。
「ふぁ…」
これは、バイトで徹夜した後授業を受けながら欠伸してる俺。
「…」
これは、ほぼ無人駅に近い老朽化した私鉄の駅で12分に一本の電車を待つ俺。イヤホンからは一昔前に流行ったバンドのアルバムがループされて流れている。
「…ただいま」
これは、大学の寮に帰ってきた俺。
二人部屋で、ルームメイトは俺の唯一の友達、浦だ。浦がゲームをしている。
「おー高砂、今日早かったな」
「おー、年末シフト代わってもらった」
「年末なんかすんの?」
「いや、なんもしないけど」
「ふーん、あ、そうだ!」
浦は突然ゲームをやめて、テーブルの上に紙切れを置いた。
「これ、お前にやろうと思ってたんだ」
妙に煌びやかな装飾がされた紙切れだ。
「何?ディズニー?悪いけど遊園地とか興味ねんだわ」
「違う違う!よく見てみろよ」
「…年越しパーティー?今時こんなもんやる奴いるのか。飲みサーの定期集会とか?」
「馬鹿か!!ここを読め!」
浦は紙切れの端を指さした。
「しょうもんじ…ちあき…?有名なの?」
「知らないの?マジ?松門寺千秋って、松風グループのトップ!
あらゆる大企業を裏で牛耳ってるって噂の財閥の坊ちゃんだよ。
ただ、表向きはカリスマ経営者ってことで名が通ってる。
自分の事業も大成功してて今や、国でさえもこいつには逆らえないって話も聞くくらいだ」
ほら、と浦は「松門寺千秋」で検索したスマホの画面を見せる。
いつかの会見で撮られたであろう顔写真はまるで舞台挨拶で手を振る俳優のようだ。
週刊誌やファッション雑誌ではモデル顔負けの容貌をもてはやした特集も組まれたらしい。
「そんな勝ち組坊ちゃんのお遊戯会の招待状が何でここにある」
「それは詳しくは言えない」
「いっそう怪しいパーティーに見えてきたな」
「とにかくこれは、出世コースへの招待状と言って過言ではない代物だ!このパーティーに参加するのは松風グループの役員だけでなく、松門寺と癒着してるっつう政府のお偉いさんも来るらしい。ここはセレブの宝箱だ!」
「そんなとこに週6バイトの俺が行くのか?そもそもセレブと会ったからって出世できるわけじゃねえし」
「心配ない!目的はただ一つ!美味い飯を食う!美味い酒を飲む!セレブの豪遊に紛れて遊んでやる!」
「出世がどうのってのはどこいったんだよ」
「な、頼む!遊びたくても松門寺のお庭に俺一人では流石に心細い!友よ、いざ行かん!」
「…松門寺ねえ…」
キラキラ光る招待状は、遠い国のゼロが沢山ついた札束のように見えた。
カシャ
スマホで招待状2枚の写真を撮り、俺はそれを教科書の後ろに挟んだ。
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