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……
ここには、埃一つ入ることのできない砦がある。
天空の監獄のように、一人の囚人を捕らえて。
2重の扉の鍵を開け、長い通路を抜けてから、指紋、虹彩、静脈、声紋を全て認証させ、ようやく目的の相手の声を聞く。
「坊ちゃん」
主人は顔を見せず、訪ね人を中へ招くこともない。
「…対象について伝達に参りました」
厚い金属の扉が開いた。
扉の先には、高い鉄柵が並んでいる。
その檻のような部屋の中で、一人の男が植物に水をやっていた。
部屋の床全体が芝生に覆われていて、その上に裸足で立っている。
植物はどれもその床から生えているもので、
広い部屋には窓ひとつない。
「坊ちゃん」
坊ちゃんと呼ばれた男は、植物になる果実をもぎ取り、口に入れた。
男は地面へ腰を下ろし、柵の向こうの訪問者をじっと見つめた。
「申し訳ございません。まさか、対象があのような行動に出るとは夢にも思わず…」
「…」
男は黙って端末を取り出し、メッセージを打った。
訪問者の前のモニターがメッセージを映し出した。
「…はい。しかし先程竹内から連絡があり、現在彼はパーティーへの参加を断固拒否しています」
「申し訳ございません。すぐに他の手段を考えます」
男はタイプする。
「…本当にあの計画を実行するおつもりですか?」
男は窓のない部屋の天井を眺めた。
「強引に連れ出すことは可能です。しかし…
坊ちゃんはそのような乱暴をお好みですか。」
彼は端末を投げ出し地面に寝転んだ。
「…おやすみ」
男が自分にさえ聞こえないほどに小さく呟くと、鉄柵の前にシャッターが下りた。
……
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