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「しばらくはここで彼の学生生活を見守りつつ過ごしてみようかな、なんて思っていたのですが…どうでしょう。構いませんか?」
「は…?」
俺だけではない、全校生徒の口があんぐりと開いていた。
「え、ええ!もちろん、私どもは大歓迎でございます!」
ステージの脇に立っていた女性が首が折れそうなほど力強く頷いた。
なるほど、何を言われようとそうするようによく手懐けてあるわけね。これだから権力者は…
「ありがとう学長。
では、当分の間僕も彼と一緒にお世話になります。
そういうことになりましたので、よろしくお願いしますね、生徒の皆さん。」
しんと静まり返ったのも束の間、一瞬で爆発したような歓声で講堂が揺れていた。しまいにはフラッシュが焚かれ、所々で生徒が驚いて腰を抜かしたり泣き出し始めたりした。こいつはロックスターか何かか?
俺は一人、奥歯を噛み締めていた。
「ちょっと……話をさせろ」
その顔を見るに、自分がどんな突飛な行動をしているかという自覚はあるようだった。
一通りの儀式が終わると俺はステージの裏に奴を引き摺り下ろした。
「おい、どこへ行く」
俺は幕や機材の積まれた薄暗い場所で、ようやく堪えていた怒りを栓を抜いたように爆発させた。
「あんたバカか!?ステージに俺を引っ張り出しやがって。俺が人間だって隠すなら目立たないように大人しくするのが一番良いだろ!何全校生徒の前で見せ物にしてんだよ!」
「何が不満だ。望み通り安全を鑑みて私が直々に警護しようと言ってやってるのに」
どこまで傲慢だこの野郎…
「どんなに安全だって俺は目立ちたくないんだよ!!お前みたいなのが隣にいたら毎日動物園のパンダみたいに過ごすことになる!キャーキャー騒がれて嬉しいのはお前だけだっつうの」
「我が儘を言うな。私としても不本意だが仕方がない。こうすれば人間と疑われることはまずないし、お前がまた勝手なバカをして手間をかけることもない」
まだそれを引っ張り出すか。
ノアのことはもう思い出したくもない。
「たしかに例のことは申し訳ない…と思う。
ああ馬鹿だったよ俺が!あんたの執事を信じた俺が!ついでにお前も!血には興味がないみたいな顔して。結局腹が減ってるだけじゃねえか」
思い出したらゾッとする。
こいつ、俺の血を見て押し倒してきたんだった…
「ああ、確かに。簡単に他人の言葉を信じる奴は大馬鹿だ」
悪びれもせず吐き捨てる。
さっきまでアイドルやってたこいつが言うと尚更酷い。何がいいんだかわからないがこいつに心酔している生徒のことも埃くらいにしか思わず、都合のいい時誇りだなんだと褒め称えておいて、いざと言う時邪魔になったら片手で払ってしまうんだろう。
完璧に取り繕った笑顔を信じた方が悪いって。
「お前は弱いんだ。ここは誰も彼もが助けてくれる優しい世界じゃない。いつまでもお花畑みたいな頭では困る」
そうか、全部俺のせいだって言いたいんだな。
ならもう俺に何も期待するな。
「…もういい」
「どこへ行く」
「お花畑に行くんだよ。ついて来んな」
どうせ一緒にいたって、馬鹿にされるだけだ。
俺が馬鹿だって、そんなこととっくに分かりきってるってのに。
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