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浦は舌打ちした。
「もし見つかったら俺のこと変身させろよ」
浦の手が脇腹を撫でる。
「あっ、あっ待て無理、無理だって、正気かよ」
「松門寺ならいいけど俺とは無理?」
「ヤってねえから!」
浦が正気じゃないのはわかる。
呼吸が浅いし、やけに饒舌だ。
「俺は松門寺みたいな天才じゃねえけど、
あいつよりはお前のことよくわかるつもり」
「…っ、っあ、」
耳や首を唇で撫でられる。
「こんな学校なんかやめて、俺と組んで金儲けしてさ、いいビジネスじゃん」
「浦っ…お前っ!これ以上やったら絶交だから…」
浦は俺の頭の上に手を置いた。
「俺以外に友達いねえじゃん。ひとりぼっちでもいいの?」
「それは…そうだけど」
だけど、お前までそんな風に態度を変えるのか。俺が人間で血が欲しいから、食いたいから。
「仲直りしよう、お前のもしてやるから」
浦はチャックを下ろした。
あの時ほど嫌じゃない。
ノアみたいに乱暴じゃないし、こいつはずっと友達だったしすごく嫌なわけじゃないけど。
だけど、今すぐ冗談だって笑ってくれないと、俺は泣きそうだ。
「浦…冗談だよな」
浦の息が耳にかかった。
「だと思う?」
「…わかりましたよ浦野君!君はどうしても高砂君を匿うつもりですね。仕方ありません。罰則は二週間!」
「…だって、いいのか」
クローゼットの扉に空いた穴から光がうっすら漏れて入ってくる。
浦の顔は暗くてわからない。
「罰則なんかいいよ。早く」
やりたいわけじゃないけど、怖くない。
怖くないけど…やりたくない。
やりたくないって断っても、笑ったままでいてくれる人を俺は知らない。
「悪さはしないし、俺とお前なら上手く事は進むから」
俺は膝を曲げて、背中をクローゼットの壁につけたまま頭の位置を低くした。
目の前にあるとわかって、口を開けなかった。
口を指がこじ開けて、それが俺の口の中を満たした。
体温が口の中で蒸気を上げて、
熱い息でもっと大きく感じる。
「…はぁ、」
浦の手が後頭部を押さえつけて
喉の奥を抉られる感じ。
友達ってなんだろう。…何だよ。
慰め合うもの?
俺はお前に利用されてるの?
それとも俺はお前に利用されたいの?
俺にとっての友達ってなんだよ。
こうやって舐めたりすんのって
…普通か?
普通じゃないはずだった。
そんなこともわかんなくなるくらい、浦のことを疑いたくない。
それに、これでまた友達なんだとか。
俺はまたそういう言葉で簡単に…
だって、俺は普通じゃないし
恋人どころか、家族も友達もまともに作れなかったし
人肌が恋しいとか、そんな次元じゃなく
夜中に眠れなくなるほど、息が苦しくなるほど
孤独が恐ろしいものに思えてくるし
飢えて飢えて、どんな手を使ってでもいいから、誰かを引き止めたい。
男だろうが、男であるからこそもっと執着してしまう。恋人なんか求めてないのに、友達にさえなれないのかって。友達にもなれないなら、俺はどうやって受け入れて貰えばいい。
わからなかった。
だけど
「っ…」
引き止めなくても、ここでは俺をとっつかまえて血の一滴でもいいからと縋り付いてくる。
それに、何か俺の細胞を取り込もうとするみたいに肌を狙い行為を求める。
なんでこんなことで俺に構ってくれるのか分からないけど、今はそれでもいいと諦めた。
普通の関係が作れなくても、
少しだけおかしくても、
これが一番単純で簡単で、楽だ。
俺さえ許せば、楽になれた。
「そ…それ。上手いよ」
「っんぐっ…んんっ」
吐きそ…
だけど
これでいいんだろうか
浦が良いって言うなら、
じゃあ、これで良いのか
でも俺はそんなに良くない
なんで、友達ってこんなに苦しい?
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