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「完成です!いかがですか!」
俺の体はもう一ミリも動かない。
慣れないポーズを取らされて、体の筋肉が攣っている。
「…これは一体何ですか」
竹内はたかだかとそのおかしな本を掲げて言った。
「高砂颯喜様プレミアムフォトブックでございます!」
「ふぉ…プレミアム…はい?」
「松門寺邸で撮影したここでしか見ることのできないオリジナル仕様となっており、最後にはチェキ風写真もお付けして…一冊3500円!
今回のパーティー会場で2冊以上お買い上げのお客様にはなんと!
チェキ風写真に本人直筆サイン(複製)もお付けしたスーパースペシャルレア版を抽選で100名様にプレゼント!
パーティー終了後には通販サイトでの販売も予定しておりますが、数には限りがございます。
なくなり次第販売終了となりますのでご了承ください。」
「あのー、何をおっしゃっているのか全く」
「失礼いたしました。少々熱くなってしまい…。」
こほん、と竹内は咳払いした。
「私は、失礼極まりないことながら、颯喜様がこれほど魅力的な方だとは存じておりませんでした。しかしその眉目秀麗で艶やかなるお姿。今日明日限りとなってしまってはあまりにも惜しい…そう竹内は思うのでございます」
「褒めてくれてるのは有難いんですけど…
写真集はやりすぎっす」
竹内は数秒考えて頷いた。
「では…ひとまずこちらは私が保管しておきます。後ほど坊ちゃんにもご覧に入れましょう。
…しかしこのように華美なお姿を誰にも見せずに、本当にお帰りになるのですか?」
この衣装が竹内の期待には応えられていたようなのは少し嬉しかった。でも、もともと期待に応えようとしていたわけでもない。
「だって俺、パーティーなんてどうすればいいのかわかんないし!ここ、セレブしかいないんでしょ?俺にはちっさいテーブルと缶ビールさえあれば十分だ。
俺みたいなのが居たら笑い物になるだけ…」
「心配無用です。あなたは立っているだけで、
十分輝いています」
竹内は根拠のない自信を俺に押し付け、
重い扉の先へと導いた。
賑やかな声が扉の中から溢れ出している。
落ち着かない足がその扉から一歩遠ざかる。
竹内が立ち尽くす俺に声をかける。
「パーティーが始まります」
「どうしても、行かないといけないんですか」
なぜこんなところに立っているのかわからない。今すぐ帰って紅白でも見ながら寝っ転がりたい。竹内は首を振った。
「ここまでお付き合いいただき大変嬉しく存じます。強引に連れ回してしまったことをお許しください。全ては坊ちゃんのためでございます。」
竹内は深々と頭を下げ、そのまま続けた。
「…しかし、パーティーは楽しんでこそ価値があるもの。もし当家のもてなしがお口に合わないようでしたら、遠慮なくお帰りになってください」
「帰らせてもらえるんですか?」
「もちろん。颯喜様を連れてこい、との御命令です。
引き止めるのは私の仕事ではございません。
一度足を踏み入れて頂ければ、それで結構です」
「…一度入れば、それで?」
夢のように目まぐるしい1日だった。
だけど、それももう終わりだ。
足が、ふいに軽くなった。
「中へ入ったら、ぜひ食事と一緒にステージをご覧になってください。楽しい時間をお約束いたします」
竹内は一礼し、眼鏡をくいと上げた。
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