秘密の花園

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扉の中に何があるのかはわからない。 貴族達がこぞってシャンパンタワーなんかで盛り上がってたりしたらどうしたらいいんだ。 「大丈夫、これで帰れる…」 年明けまであと何時間もあるか? これが何かの罠で、入ったら即ボコられたりしたら… トン、と腰を叩かれた。 「うわっ!」   思わず何かを振り払うと、誰もいない。 「ここよ」 下から声がする。 目を落とすと、 そこには小さな女の子がいた。 「あら、ごめんなさい。驚いた?」 フランス人形みたいな顔。 真っ白な肌。 パチパチと瞬きをして俺を見上げている。 「い、いや、俺こそごめんね。 大丈夫だった?」 女の子は手をひらひら振った。 「うん、私はね。あなたの方こそ大丈夫? 多分、初めてなんでしょ」 見た目に比べて大人びた口調だった。 子供にもあっさり見抜かれてしまい、 少し恥ずかしくて笑った。 「やっぱり俺、浮いて見えるかな?」 女の子は俺の顔を見ながら首を傾けた。 10歳くらいだろうか? こんな小さな子もこのパーティーに招かれるのか。それにしてもしっかりした子だ。 「全然浮かない。まるでどこかの国の王子様みたいで…、あ!ねえ、まさか」 女の子は突然人目がないかあたりを見回して、 俺にしゃがませ耳打ちした。 「もしかしてあなたなの? 噂の御曹司って…」 「え?御曹司?」 聞き返そうとすると扉が開き、中から優しげなお爺さんが現れた。 「お嬢様!こちらにいらしたんですか。 迷子になられたかと…」 女の子はきっと目を細めた。 「もう、人前で子供扱いしないでよ。 …じゃあね、新人王子様」 女の子はお爺さんに手を引かれて中へ消えた。 王子様って…? それに御曹司がどうのとも言ってたな… なんとも言えないむず痒い響きに顔をしかめた。こういう場所では珍しくもない言葉なんだろうが。 しかし、子供でも呼ばれるようなパーティーだとは微塵も思っていなかった。 思ったよりも敷居の高いものではないのかもしれない。 それに、無理に帰ろうとして沈められるよりは何倍も良い、はずだ。 「…よし」 あのお嬢様に勇気をもらったようだ。 なんでも食って飲んで、好きなだけ無料で楽しませてもらおう。浦に自慢してやろう。 そしてまたバイト生活に戻ろう… 扉の中へ足を踏み入れた。
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