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始まり side 彼
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「え、お前想像以上にやばいやつなんだな。」
狭い部室の中 彼の笑い声が響き渡る。
「だって、起きたら入ってたんだもん。」
「もんじゃねぇーよ」
彼はよく笑う。
普段は感情がこもってない顔も、笑う時には口角がにぃっと上がって薄い唇が大きく開く。
そんな豪快な笑い方をするもんだから面白くなくてもつられて笑ってしまう。
彼は気持ちの波が上手くコントロールできないようで人と壁をつくりやすい。
まぁ、多分他にも理由はあるだろうけど、
隠してるっぽいからあえて何も言わない。
俺はなぜか上手くいって一緒にお昼ご飯を食べるようになって3ヶ月がたった。いつもは無表情な彼が俺にだけ笑いかけてくれるのが嬉しい。
ツボは結構浅くて引き笑い、爆笑するときは絶対周りのものを叩くし照れると口はへの字になる。
これ知ってるの、俺だけじゃない?
人見知りなネコが懐いたみたいで優越感を覚える。とにかくリズムが合うっていうか、彼がつくり出す空気が最高にフィットする。
「下からちょっとついたらさ、止まんなくなって。最後までやっちゃった。」
「俺だったら怖くて萎えるわ。」
購買のパンを床に叩きつけながらゲラゲラと笑いだす。最近は登校中に何を話すか考えるのが俺の日課。
「胸が気持ちよさそうだったから、逆にね?
元気になっちゃったのよ。」
「なんの逆にだよ。」
「え、胸って1番下半身にダイレクトじゃね?」
上に乗っていた揺れるふたつの柔らかい球体を思い出す。あったかくて、しっとりしてて、弾力があって、やべ、たちそ。
「童貞かよ、、、」
隣の彼は口にパンをつっこみながら半笑いで呆れたように見てくる。
「じゃあ何で興奮すんだよ」
「感度だろ、どう考えても。」
感度かぁ、
「マグロじゃなかったらなんでもいいけどな、別に」
デカい声で喘がれても萎えるし、タイプの女でもしつこいのは無理かな。どっちにしろ声出されるの好きじゃないんだよね俺、萎える自信しかない。
「喘ぎ鬱陶しくね?」
「悶えてる声かな、どっちかっていうと」
思わず吹き出す。
変態っぽいセリフと死んだ表情のミスマッチがすごい。こいつ、ねちっこいセックスしてそうだな。
腰を振ってる姿がどうにも合わなくて考えるのをやめた。そんな生気を失った顔でヤれんの?雰囲気もクソもない。五分くらいしたら力尽き果ててそうだし。
姉貴の男友達が同性とやっていたのを思い出す。仲が良く彼らは俺の家に女を連れてきては抱いている。俺の家はフリーラブホ化しているのだ。
俺も割り切った関係の女を作りやすいので多目に見てるし、ちょっとハメを外しやすい奴らだが楽しいから問題は無い。
同じ学校の女子は恋がどうとかめんどくせぇし、体だけの関係ならほとんど接点のない女の方がやりやすい。
「女はすぐ好きになるからめんどくさい。」
先輩が男を抱きながら言ってきた。
どうやら抱かれてる男はかなり感じているようで、俺にはお構い無しにあんあんと喘ぎ出す。
へー、ソコに突っ込むんだ。
男同士のセックスを初めての見た感想だった。
「まぁ濡れやすいのはいいよな、楽だし」
頭の中で突っ込んだ穴を思い出しながら喋る。
カラッとした夏の暑さが襲ってきて額から汗がだらだらと止まる気配を見せない。
「タオルとってくれん?」
横の彼はあまり暑そうでないが、分けている前髪がペタっと額にくっついてうねっている。
じっと見ているとどうやら気に触ったらしい。鬱陶しそうにこちらを睨みつけてきた。
つい可愛くて肌に張り付いていた髪を持ち上げるように触れる。
「なに」
こっちを睨みつけて口をへの字にする。
「この場所かえね?」
チラッと俺をみて、なんで?と顔が訴える。
「冷房の効いた部屋にしよーよ。探せばあるって。」
さすがにこんなサウナみたいな所で飯を食べる気にはなれない。俺は持っていたコンビニ弁当を適当にしまい込む。
「いいよ。」
無表情にもいくつか癖があって、ずっと隣に居ればだいたい分かるようになってくる。
声にも調子が乗ってない。最近は声色の変化にも気づくようになってきた。分かりにくいようで分かりやすいやつ、こんな狭い場所の何を気に入ってんだよ。
早くここから出たくて俺は素早く立ちポケットの中から鍵を取り出す。彼は食べかけのパンを無理やり口の中にいれて後ろから追ってくる。
「忘れ物ない?」
「むぐ。」
彼の口がもぐもぐと動いてはみ出たスティックパンがリズムよく上下する。
コントみたいで思わず笑ってしまった。
彼はまた眉をひそめると俺を追い越して先に出ていった。
前を歩く頭からはぴょんと跳ねている寝癖が彼に合わせて踊っている。
かわいい。
彼はかわいいのだ。
女に感じるような可愛いとか、ヤリたいとか、そうゆうのじゃなくて、ペットみたいな感覚。
ふわふわしててむず痒くなる。
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