一方通行

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機嫌の悪さをあからさまに出して教室に入り机に突っ伏す。 今日は一切授業聞かねぇからな。 誰に反抗してんのか、心の中でそう宣言して意識を手放した。 「おはよ」 彼の髪から太陽の光がもれて眩しさに目を細める。 「・・・今何限、」 「何限でしょーか」 うぜぇ。 窓側の席には寝てくれと言わんばかりの日当たりに、風が心地よく髪を揺らす。 おそらく1年生が体育でもやっているんだろう、寝起きの頭には騒ぐ声さえも子守唄に聞こえた。 「顔、あとついてるよ、」 教室には俺と彼だけ。 窓から柔らかく吹き込む風にもう一度瞼を閉じそうになる。閉じそうになるというか、閉じてる、 無理、起きるとか無理。おやすみ世界、さよなら単位。 「いてっ、」 そんな俺に無慈悲なデコピンを飛ばすサイコ野郎。彼はだるそうにベルトを外しはじめた。 「学校でとか大胆だな、欲求不満か?」 冗談半分で見事に割れたシックスパックを凝視する。鼻血はでていない。 「次体育だから、早く着替えろって。」 骨格が元々デカいんだろう、いかにも女子が食いつくような体。 広い肩幅が性癖なので俺は彼の見下すような視線を無視してじっくりと堪能する。 あー、抱かれてぇ。 そのごつい腕で抱きしめられたいしなんならそのまま潰されたい。 鼻息が荒くなった俺に2度目のデコピンがくだされる。 「っ、、」 テメェ今のちょっと本気じゃねぇか。 「やんのかシックスパック、ガリガリワンパックの強さを思い知らせてやる。」 「見すぎな?つーが早く着替えろ、もう始まってんだろ。」 あ、あれ、俺らのクラスか。 どうやら窓から見える体育着を来た男達は俺らのクラスだったらしい。 「体育か、、だりぃな。」 あと筋肉うまそう。 下がったテンションを褐色の筋肉で慰める俺、変態ではない。 体育は嫌いではないが、得意ではない。 昔からそんなものが沢山あって、俺の高校生活は嫌いじゃないけど苦手なもので溢れている。 俺の目の前で着替え始める彼は俺とは真逆だろう。得意だけど、好きじゃない。そんなもので溢れかえってる。 「どーしたん、きょう」 「ん?」 かるく、ふっ と唇が触れ合う。 「朝から熱視線」 そう囁くと、もう一度唇を重ねてきた。 甘ったるい香水の匂いと湿った柔らかい感触がじわじわと唇に広がる。 あー、キスか。なんて他人事のように考える。 口を軽く開けると彼の舌が開いた下唇をなぞった。 丁寧に、溶かしていくよう舐められる。 女の匂いと煙草の匂いが入り込んできて、嫌悪感に眉をしかめる。 軽いやつだと思ったらどうやらそうではないみたいだ。何回か角度を変えて俺の唇に彼のが合わさり、噛まれて、引っ張られて、じんじんと熱をもつ。 彼のシャツを掴むと、舌がゆっくりと奥へと入っていき密着した。 深いのいつぶりだっけ、 香水女の事は忘れて嬉しくなってしまうんだから救われねぇ。 久しぶりの感触と濡れた音が俺を徐々に昂らせていき、歯茎の裏を軽くなぞられて息が漏れた。 彼は満足そうに微笑み舌先で上顎をなぞる。 あーそれ、その性格悪そうな微笑み方が俺大好きなんだわ。舌を絡ませながらじっと見つめられ、足元から快感がゾワゾワと這い上がり掴んでいる手に力を入れる。 「ンッ…」 耳を軽く触れられ思わず上擦った声が漏れる。 もっと、と体を密着させようとすると軽く胸元を押された。 「・・・きがえるか、」 は?? 見上げた彼の顔は何か吹っ切れたような、サッパリとした表情だった。 一言そう言うと、目にかかった前髪を鬱陶しそうにかきあげながら、着替えにもどっていった。 は? え、 は?? しばらくフリーズする俺と冷めた顔で準備に入る彼。 いや、ここで終わるんかい。 ピキピキと血管が浮き上がるのを感じた。 あーーー、はいはい。そうですか、そうですか。 盛り上がっちゃってんのは、俺だけって? 「トイレ、」 放った小さな声には自分が思ったよりも不機嫌が滲み出ていた。早足でドアにむかう。 うわ俺面倒くさ、相手にされない女子かよ。 惨めなのと体の熱さがごちゃごちゃになって乱暴にドアを閉める。 跳ね返る音が静かな教室と廊下に響き渡り、その中を俺は前のめりでトイレに向かった。 「あのクソ野郎。」 涼しそうな顔がフラッシュバックしてまた早歩きになる。健全な男子高校だろ、性欲とかねぇのか。 それともあれですか、俺が問題ですか? 女子じゃなかったから興奮しなかった的なあれですか?やっぱ男はそんなにかなぁ的なあれですか? 悪かったなキスだけで腰抜けになって、 俺は興奮したけど。お前は俺に興奮しないんだ、 知ってたけど、 ちょっとはしてた? 何でもなさそうに着替えを再開し出すあいつの顔が浮かんでくる。 「・・いや、してねぇな、」 自分だけが興奮した事実が居た堪れずに大きなため息がでる。 グルグルと頭の中を回るだるそうな彼の顔が惨めさを育てていく。 「くそっ」 認めざるを得ない、 完全に俺の一方通行だってこと。 「気がないなら最初からキスなんかしてんなよ、」 熱く体内をさまよっていた欲情が冷たくなるのを感じる。トイレにつく頃には思考も体も完全に冷めきっていた。 今から着替えて体育とかだるすぎ。 何より体育は彼が活躍する時間だ。 そんなものは糞ほど見たくない。 「・・・サボるか。」 小さく呟いた声が男子トイレに響いて、虚しくなった。
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