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第1話 美しい娘
信長様
なんだ
暇をもて余してござらぬか
そうだな
下町がどのような暮らしを行っているか見てまわりませぬか
そうしよう
ただちに準備します
ほう
割と賑やかだな
だんご屋もあるでないか
あそこは風車も売っているぞ
今日は
砂ほこりがすごいから
水をまこう
バシャ
バシャ
バシャ
あ、申し訳ありません
信長様
大丈夫ですか
殿様の足元に水をかけるとはなんたることだ
申し訳ありません
ひざまずけ
打ち首だ
やめろ
辰之進
は
大した事はない
そちの顔をよく見せてくれぬか
なんと
信長様、どういたしましたか
今日は城に帰ろう
は
なんたる美しさじゃ
澄んだ瞳に白く透きとおるような肌
あの瞳に見つめられて今日は眠れるだろうか
お殿様
私が無礼を働いておりながら
優しい笑顔で許してくれました
しかし、もう二度と出会うことは許されません
でも、お殿様のりりしいお顔は忘れる事が出来ません
殿、また下町を歩くのですか
もう3日続けてですよ
黙っておけ
町民の生活ぶりを見て回るのもわしの仕事だろう
やはり、今日もいないか
この風車を売っている所にもいないのか
なぜだ
なぜだ
なぜだ
お殿様
もうお姿をみることさえ出来ないのですね
いつも、そう思っております
そういえば
鈴
昨日、お前が話していたお殿様が通られたぞ
どのくらいの時でしょうか
昼頃だったぞ
もしかしたら、今日も通られるかもしれません
お殿様の後ろ姿が
どうかこちらを向いてください
殿、先日の女が後ろの方にいます
何
よし
殿、駄目であります
なぜじゃ
この間のことを町民が見ております
これ以上かかわると信長様の権威が下がります
仕方ない
じゃあ、そこで団子を買え
は
団子をどうするのですか
あの女性に渡してこい
は
お侍様、これは団子ではないですか
どなたが私に
それは言えぬ
もしかして
お殿様
私も、お礼を渡せないものでしょうか
どうして、お前の後ろ姿しか見ることしか出来ないのか
町民が見ているだというなら
わしは、なぜ本当に愛する人と結ばれないのじゃないか
側室はいらない
愛する人がそばにいればそれで十分だ
辰之進を誰か呼べ
は
殿、どうされましたか
辰之進、ここだけの話しがある
絶対に他言はするな
もちろんです
この間、わしの足に水をかけた女性がいただろう
わしは、その女性のことを忘れられなくなったのじゃ
そうでありましたか
その女性の名前など調べてくれぬか
は
殿、わかりました
名前は鈴
仕事は風車の職人のもとで働いています
そうか、わかった
また、なにかあったら頼む
は
お殿様
いつかいつか会える時が来ないでしょうか
身分は違えど、お殿様に恋を寄せております
どうぞ、もう一度会わせてください
せめて、りりしいお姿を見るだけでもかまいません
辰之進
もう一度会える方法はないだろうか
いい策はないか
は、調べて参ります
この日に町の祭りがあるそうです
そこに参加すれば会えるかと思います
ただ、衣装を着替えていかないといけないでしょう
そうだな
髪もそうです、町民が被っているような帽子が必要かと思います
わかった
そろそろ、祭りの時間か平民を装うか
お~い
鈴の舞いが始まるぞ
相変わらず美しいな
なんたる美しさ
鈴
お殿様ですね
二人はひかれ合う
今年も鈴の舞いも終わったか
あいかわらず美しかったな
そうだな
鈴、どこにおる
あそこか
違うぞ
これだけ人数が多いから見失ったではないか
こっちか
お殿様、どちらにいらっしゃいますか
もう一度、せめて背中でもかまいません
触れることは許されないのでしょうか
鈴、鈴
なぜ、いない
戦で大将を見つけるより困難ではないか
こちらか
いたぞ
お殿様が後ろにいらっしゃるようです
愛しき方の暖かさを感じます
少しでも暖かさを消さないためには
胸元に飛び込んでいくことです
でも、私に出来るでしょうか
私は恥ずかしくて後ろを見ることができません
後ろを向くだけでいいのです
神様、私に勇気を下さい
敵国の猛者や大将などを恐れたことは無い
しかし、今や恐れているのは鈴への想いが伝わらないことだ
敵国の大将を討つのは容易だが
鈴の手に触れるのは困難だ
だが、困難を乗り越えなければ
柔らかい鈴の手に触れよう
お殿様
鈴
どうして私の名前を知っているのでしょうか
鈴という名に引き寄せられたのじゃ
今日から城で過ごそう
私は家に帰らなくてはなりません
どうしてじゃ
病気の母がおりますので
面等を見なくてはいけないのです
それでは、お母様を呼ぶのじゃ
いえ、ご迷惑をおかけします
大丈夫じゃ
名医もいる
なにより、鈴と毎日会える
よろしいのでしょうか
ああ
辰之進、頼むぞ
城内にて
殿、奥方が増えましたな
いや、鈴には奥方にさせようとは思わない
鈴に何か無理のない仕事をさせるように
は
お殿様、夕食を作って参りました
どれどれ、食べさせてくれ
美味しいじゃないか
今後は食べながら話し相手になってくれるか
私でよろしければ
お殿様、今日は新しい子がいるではありませんか
どうされたのですか
大奥、突然どうした
いえ、噂を聞き様子を見に参ったところです
奥方にさせるのですか
いや、この子は奥方にはさせない
なぜですか
それは言えぬ
わかりました
お前は何という名前じゃ
鈴と言います
また、美しい子だね
私は大奥で京という
殿のために尽くしなさい
お声を掛けて下さいましてありがとうございます
殿、また美しい子を見つけましたな
京ほどはないぞ
褒めていただいてありがとうございます
鈴、奥方の部屋を見せて上げましょう
あなたも奥方になるかもしれないからね
ここじゃ入れ
はい
キャアア、止めて下さい
どんな綺麗な体をしているのかね
まあ、色が白くて美しい
お殿様が気にいられるはずだ
言っておくがな
私の前で恥をさらすんじゃないよ
はい
鈴
今日はさぞかし疲れたであろう
先に早く寝なさい
信長様も
ゆっくりと休まれてください
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