【ショート・ショート】ゆーとぴあ

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持ってきた歴史本を数時間かけて読み続け、目が疲れてきた俺は、ふとぐるりと辺りを見回し、乗客の顔ぶれを見てみた。 気のせいかもしれない。 が、その顔ぶれは俺と同じように人生に疲れきった顔つきをしていた。 器量はいいものの、その性格が災いし35歳を迎えても未だ結婚に至らず、SNSで愚痴を吐き続けている葉月。 アニメに没頭し続けた結果、気がつけば自分には「仕事」しか残っていなかったという、後輩のヒロシ。 俺にしても、ネット上で歴史論争を繰り広げて論破に快感を覚えたせいか、知らぬ間に「人を寄せ付けないオーラ」を身にまとい、結婚はおろか友人すらもマトモに出来ない人生を送っていた。 その他の乗客がどういう人生を送ってきたのかは俺には知る由も無いが、おそらく彼ら彼女らも俺と似たような人生を送っているのだろう。 「よーし、菅田首相からもらった給付金もまだ残ってるし、この年末年始はクリーンアイランドで思いっきり『心の大掃除』をしちゃうぞ!」 鼻息を荒くさせながら葉月が言うと、飛行機が着陸の旨を放送で告げた。 俺を含む全ての乗客がシートベルトをすると、飛行機は小刻みに上下に揺れながら着陸をした。 リノベーションし、無人島から全ての人間の心を惹き付ける魅力溢れる島に生まれ変わった「クリーンアイランド」 その「クリーンアイランド」に「国民の心の大掃除」という名の国家プロジェクトに当選した我々は初めて降り立った訳だが、地上から島のその全容を知った我々は目を見開いた。 あれ程、テレビやインターネットを通じて(きら)びやかな様相が伝えられてきた、「クリーンアイランド」 その実態は、ベニア板やハリボテで作られたモノであり、全てがフェイクであったからだ。 「おい、どういう事だよこれは!」 ヒロシを含む乗客が罵声を発し始めたとき、既に飛行機は逃げるように島から離陸していた。
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