【ショート・ショート】ゆーとぴあ

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島に降り立った乗客からは、次から次へと罵声や怒号が発せられた。 当然であろう。 「心の大掃除」と称して連れて来られたリゾート地が、実態はフェイクで覆われた島であったからだ。 「コレは一体、どういう事」 ここまで俺が言った時、辺り一面は真っ白としか形容出来ない膨大な光に覆われた。 そのコンマ数秒後に鳴り響く、「ドンッ!」と世界そのものがひっくり返されたような激しい爆発音。 俺は絶命した。 いや、俺だけでなく俺と一緒に島に降り立ったヒロシや葉月や、飛行機に乗っていた乗客全てが絶命したのだ。 理不尽とも言える、この「悪魔的所業」の実態を俺が知るのは、霊魂となり菅田首相と閣僚のやり取りを見聞きしてからであった。 「まずは、マイナンバーカード所持の徹底で、SNSやインターネットなど全国民の発する言動をチェック出来たのは良かった」 「日本経済が一向に改善しなかったのは、心が不健全な国民が健全な国民を罵倒する事によって、労働生産性を損なわせているからですからね」 「インターネット上での罵詈雑言は、見ているだけでも腹立たしいモノがあるからな」 「そこで、菅田首相は一大プロジェクトを思い付いた。 ネット上で、苛烈に他者を誹謗中傷や罵倒している国民をピックアップし、無人島で一斉に排除してしまうプロジェクトだ」 「捨てアカウントだか何だか知らんが、見えない位置から他者を罵倒する行為は卑劣でしかない。 だから、旅行と称してハリボテの島にあのゴミどもを集めた」 「後は、島のモニュメントに埋め込んでいた強力な爆弾を爆発させて……」 「いずれにせよ、コレで国民の心の大掃除は終わった。 皆、よい新年を迎えられるだろう。 私としても、ゴミを掃除した事で胸がスッキリとしたよ」 俺を含め、ネット上で散々罵詈雑言を吐いていた既に霊魂の者達は、実体を持たないが為、高笑いの菅田首相に対してただ怒りを覚える事しか出来なかった。
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