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年末も残り僅かである、大晦日の朝。
最後の仕事である、我が家の大掃除を終えた俺は、スマートフォンに送り届けられたメールの指示通り、空港でジャンボジェット機に乗り込んだ。
「アレ、哲夫さんじゃないですか?」
「ヒロシ……」
隣の座席に座った会社の後輩に、俺は苦笑した。
「哲夫さんも、例の国家プロジェクトからメールが来たんっすか?」
「まあな、おかげでこの年末年始は最高なモノになりそうだよ」
俺とヒロシが話している「例の国家プロジェクト」とは、今年の始めに首相に就任した菅田首相による肝いりの政策、「国民の心の大掃除」だ。
バブル崩壊以降、一向に上向かない日本経済。
そのせいか、日本国民の心はすっかりと荒みきっており、その現状を憂いた菅田首相は3つの政策を打ち出した。
一つ目は、減税と給付金のバラマキによる経済の活性化。
二つ目は、国民の動向を確実に把握する為、全国民のマイナンバーカード保持、SNSとの連携など、その徹底。
最後は、前述したように疲弊しきった国民へのご褒美とも言える、「国民の心の大掃除」という名の国家による慰安旅行であった。
かつてのゼネコンよろしく、政府が総力を上げて無人島をリノベーションし、来年1月にオープン予定の「クリーンアイランド」は、日本を代表する有名キャラクターのテーマパークや温泉。
さらには、インスタ映えするイルミネーションやパワースポットがあったりなど、かつて寂れていた無人島は、今や老若男女全てが満足する島に生まれ変わっていた。
「まさか、オープン前の『クリーンアイランド』に無料で招待されるとか思わなかったっすよ。
哲夫さんも、楽しみっしょ?」
「そりゃ、そうだよ。
この旅行に当選しなけりゃ、一人で年末年始を過ごさなきゃいけなかったんだからな。
しかし、俺にしてもヒロシにしても何でこの慰安旅行に当選したんだろ?」
俺は首をかしげると、持ってきたソフトカバーのノンフィクションを開く。
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