綺麗にして、待ってます!

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綺麗にして、待ってます!

 車がビュンビュンと走り交う高速道路。都会を離れた田舎に入っても高速道路は続く。 田舎の高速道路は山と山の間に挟まる形で敷かれている。その山肌にお墓がポツンと建立されているのを見たことがある人は多いだろう。 この物語は、このようなお墓の清掃を頼まれた青年の話である。  青年は清掃会社の正社員である。彼は想像を絶する旅路の末にやっとその墓に辿り着いた。一度、高速道路で車を走らせていた時に横目でその墓の確認はしたのだが、そこからが大変だった。最寄りのインターチェンジから降りてその墓に行こうとしたのだが、途中で道が終わっており、仕方なく車を置いて獣道を行く羽目になってしまった。 その獣道の道中で「カモシカ」「イノシシ」「ニホンザル」に遭遇する始末。青年は「クマにでもあったらどうしようか」と考えながら恐る恐る獣道を行く。  そうしているうちに先程まで自分が車に乗って走っていた高速道路の高架が見えてきた。青年はお墓の位置を確認するためにスマートフォンを開いたのだが、圏外であった。5Gの電波は勿論、Wi-Fiすらも存在するはずがない。 青年はこんなこともあろうかと、印刷しておいた地図を開いた。 「まるで宝探しじゃないか」 青年は軽い愚痴を零しながら地図に打った罰点を目指して高速道路の高架下の道なき道を歩き続けるのであった。 足が棒になるかのように重くなったあたりで、青年はやっとお墓の前に辿り着いた。高速道路沿いの山肌にあるお墓であるせいか、荒れ放題だった。 ぽつんと山肌に建ったお墓、その周りは草がぼうぼうと。ススキの類と考えられる背の高い草はお墓よりも高い。 お墓本体も悲惨なもの。山故に落ち葉が乗り放題、青年はお墓の上に乗った落ち葉を思わずに手で払うぐらいに乗っていたのだった。ミルフィーユのように層を作っていた落ち葉を全部払ったのだが、今度はお墓そのものの問題が浮上してきた。雨風に晒されていたせいか土と泥の汚濁の化粧がなされており、お墓に浅く刻まれた白い文字にも泥が入り込んで黒い筆文字となっていた。 ステンレスの花立ても錆びていた。ステンレスと言えば「錆びない」と言う意味であるが、正しくは「ステン(錆び)レス(少ない)」と言う意味で、つまりは錆びにくいだけで実際は錆びるものである。その言葉の通り、銀色に輝くステンレスの花立ては錆びに錆び切って茶色く錆びた花立てに姿を変えていた。ステンレスが錆びる程に放置されていた故に、備えられていた花も風化して風の前の塵と消え去ってしまったのか、花は生けられてない。 「全く、何年放置してるんだよ」と、青年は再び愚痴を零した。しかし、ここまでの道中は車も使えない獣道、少しでも奥にいけば(けだもの)達が相撲の稽古をしていたり、流行りに乗って猪の皮を被った野生児がいても不思議じゃない。 こんな未開の地同然の山にお墓を建ててもおいそれと来ることが出来ないだろう。青年も片道だけで5時間もかかったことで精神的にも肉体的にも疲れ切っていた。お墓参りに行くだけで修行僧の行脚のような苦行である。 青年は「遺族も墓参りに来るのは大変だろうな」と考えていた。
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