綺麗にして、待ってます!

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 青年がスマートフォンのシャッターを切ると、お墓の前に薄らぼんやりとした人影が映し出された。手元がブレたのだろうか? 青年は再びシャッターを切ったが、ぼんやりとした人影は消えない。スマホ、壊れたかな? そんなことを考えながら青年はお墓をフレームアウトさせ、肉眼でお墓を見つめた。人影は消えない、それどころか、目線をフレーム越しから肉眼に移した瞬間に、人影がハッキリとしたものに変わったのである。 人影は男性の老人だった。天冠を被り、左前の真白い死装束を纏った風体である。その足元は陽炎のように揺らめいてハッキリと見えない。それを見た青年は腰を抜かしてしまった。 「うわっ!」 「おや、久しぶりに誰か来たかと思えば、どこの馬の骨とも知れぬ者ではないか」 もしかして本物の幽霊に遭遇してしまったのか? これまでお墓の代行サービスは何度も受けているが、こんなことは初めてだ。今はまだ夜じゃないぞ、まだ昼過ぎだ、こんな昼過ぎに幽霊が出てくるなんてありえない。幽霊なら幽霊らしく夜にヒュードロドロと人魂引き連れて出てくるのが普通だろうに。青年は脳内でそんなことを考えながらその場を逃げ出そうとするが、腰が抜けていて尻もちをついたまま這いずることしか出来ない。 「これ、待たんか」 幽霊(?)が青年に話しかけてきた。まさか取り憑いて殺す気なのでは? 青年の顔が青ざめる、全身に鳥肌が立つ、産毛の一本一本までが「逃げろ」と体中に指示を送るが、脳が恐怖で恐慌状態に陥ってしまったのか「動く」ように全身に指示を出してくれない。 「あ、あわわ……」 「お主は生きとるのか。安心せい、儂は生きとるものを取って食ったりはせんよ。そもそも食べること自体ができない、生身に体がないからの。お供えに饅頭やおはぎを置かれても、そこらの獣が勝手に持ってくのを指くわえて見ることしかできんよ」 「あ、あわわぁ……」 「全く、肝の小さい男じゃて。とりあえず、幽霊がおることだけは肯定してくれんか? 儂の話を聞いて欲しいのだよ」 妙にフレンドリーな幽霊だな…… 青年にとっては「恐怖」の対象であったが、このフレンドリーさから「危害を加える気配」は感じなかったので、幽霊の話に付き合うことにした。
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