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「えっと、幽霊さんで…… いいんですか?」
「確かに幽霊だぞ。眠るように死んでずーっとそのままかと思っていたら、知らんうちに、我が家の先祖代々の墓の前におってな。死は無じゃないと言うことを知ってしまったわけだ」
「はぁ……」
青年は基本無神論者で、死んだ後は「夢を見ずに眠ったままの状態」がずっと続くものと考えていた。それが違うとわかり頭を抱えて困惑していた。
そして、尋ねてしまった。
「あの、死後の世界って言うのは」
「あー、あるよ」
「そんな気軽に言わないで下さいよ…… 死ぬの怖くなっちゃうじゃないですか」
「後は死んだ後のお楽しみ。死んだ後のことを知るのはよくない」
「死に楽しみなんかありませんよ…… それで、自分に何か用ですか?」
「お墓掃除の件でお礼を言いたくての。ここ十年は、だーれも来やしない。さすがにお盆まで誰も来なくなると悲しいぞ」
確かにこのお墓は遠い、子孫も来るのに苦労するだろう。ある年を境に来なくなって、今年になり唐突に思い出し、青年の清掃会社に墓掃除の代行を頼んだ流れだろう。青年はその旨を正直に幽霊に伝えた。
「近頃はお墓のお掃除を自分らのような業者に頼む人、多いんですよ」
「嘆かわしい。精霊馬に乗って帰ることが出来る友達が羨ましい」
「行きは胡瓜で早く、帰りは牛でゆっくりと。でしたっけ?」
「そうだ。近頃はお盆休みをただ実家に帰ってのんびりするだけだと勘違いしておる者が多くて嘆かわしい限りじゃ。墓参りにも来やしない」
「はぁ……」
幽霊は長々連々と話を続けた…… 大半が墓に訪れない子孫達への愚痴である。その愚痴要約すると「近頃は誰も墓参りに来なくて寂しい」と言うことであった。お盆にも来ない、○○周忌にも来ない…… そのようなわけで、この幽霊は何年も子孫の顔を見ていないと言うことになる。青年はここで初めて「幽霊は墓(遺骨)の周辺にしかいることが出来ない」と、気がついた。現世に降りて自由に動けるなら幽霊がこんなことを言うはずが無いと考えてのことである。
「すっかり愚痴ってしまった。すまんかったの」
「いえ……」
「今回の墓掃除は儂の子孫から依頼を受けたのだろ? 物臭者の子孫で困る。実に情けない話だ」
「いえ、仕事ですから」
「儂の子孫に今回の掃除の件を報告するなら言っておいてくれ『たまには自分の足を動かせ』とな」
言い方こそ乱暴だが幽霊が「子孫に会いたくて堪らない」と言うことに青年は気がついてしまった。青年は「故人に対するやさしさ」をモットーにしていることから、その言葉を今回の依頼者(幽霊の子孫)に対して伝えることにした。しかし、そのままの言葉では自分含め清掃会社の信用問題に関わる。青年は幽霊の言葉をオブラートに包み遠回しに「墓に来て欲しい」と伝える言葉を考えるのであった。お盆の時期はとっくに過ぎているのに居続けるところ、悪い言い方をすれば「地縛霊」だ。青年はこの幽霊の願いを叶えることで、このお墓のお掃除は終わると考えた。
「分かりました。お客様のご家族…… 今回の依頼人ですね。その旨をお伝え致します」
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