ばいばい、さんたまりあ

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 どうして、  どうして 「どうしたって?」  はっ、と。  顔を上げると彼の真剣な眼差しとぶつかった。グレイが掛かった瞳が酷く揺れている、のは自分か。  穂高は思わず、彼の腕を捕まえた。 「ま、まっ…て」 「どうした?」 「ちがう」 「なにが?」  彼の声が遠い。すぐ目の前に居るのに。  違うのだ、そんなつもりは、  そうではなくて、だってただ、  彼が、かれに、かれを どうして 「かえで」  その腕をしっかりと摑む。  いや、縋り付く。 「どうした?」  彼の声に、穂高は首を振るしかできない。  どうもしない。  どうにもならない。  だから、彼に、彼だけが、 「…楓、好きや」  すこし、戸惑うような間があったが、すぐに強く抱き締められる。 「そうか。おれもだ」  その深い声に穂高は何度も頷く。  耳に掛かる吐息の熱さと、響く彼の鼓動と、彼と触れあう部分に縋らなければ、此方側に留まっていられない。  淡い色の瞳を覗き込んで唇をねだる。すぐにいつもの感触が、そのまま、その甘さと熱に飲み込まれて、夜に、  月など見ずに。  どうしても  強く、どうか、どこにも  違うんです、サンタマリア、そんなつもりは、  そんなつもりは
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