序章 墜ちる星

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序章 墜ちる星

 いつの世も、人の栄える裏には闇があり、魑魅魍魎(ちみもうりょう)跋扈(ばっこ)する。  そしてそれは、栄光が眩しく輝かしいほど闇もまた暗く深く、力を増すのだ。  現代においては、資本主義社会が発展したことで貧富の差が拡大し、貧しい者や教養なき者は闇金や詐欺の温床になったり、楽に儲けようとして道を踏み外す。  だが多くの者が気付けない。  その裏で糸を引いているのが(あやかし)であり、それら異形の者たちの養分となっていることに。  とはいえ、すべての妖が悪というわけではなく、無害のものもいて、むしろ人間の側にも悪事に加担する者はいる。  栄華の裏に広がる、底知れず深く暗い闇。  そんな強大な敵と日夜戦っているのが、現代の陰陽師なのである――  とある田舎町の近くにある森の奥。  鬱蒼(うっそう)と生い茂る雑木林の中、息を切らせながら必死に走る女の姿があった。  肩にかかる程度の長さの黒髪で、線が細く整った顔立ちにうっすらと化粧をした三十代前後の女性で、右手で押さえている右肩からは、グレーのスーツが裂けて血が流れ出している。  額に脂汗を浮かべ、人里離れてさらに森の奥へと向かうが、背の高い木々の葉が仄暗い視界をさらに闇へ染めていく。  お先真っ暗とは、まさしくこのことか。
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