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「悪いねお客さん、もう閉店だよ」
そう言われて波瑠斗は腕時計を見た。
もうこんな時間か。急がなければ終電を逃してしまう。
まぁいい。
終電を逃したら駅前のビジホあたりに泊まると連絡するだけだ。
波瑠斗は会計を済ませ駅に向かった。
ここまできて終電に間に合いそうな事に気づき、少しだけ早足になる。明日が休みとはいえ、自宅に帰ってゆっくりするのとホテルとではリラックスできる度合いがまるで違う。
いや、それは本当か?
波瑠斗は一年前に結婚して妻のお腹には新たな命が宿っている。男と女の差なのか、妻には母親としての自覚が既に芽生え始めている。自分の体に何の変化もない波瑠斗には、父親になるという実感は全くなかった。
今だってそうだ。
家に帰れば身籠った妻がいて、常に気が立っている。そう思うと喜んで帰る気にはなれない。終電を逃したという理由をつけて、ただもっと一人の時間が欲しいだけなのだ。
本当に妻とやっていけるのか。
そういった不安が常に頭の中に付き纏っていた。
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