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そんな私の気持ちに反して、紡葵はガラス玉のような瞳で話す。
「学校は、仲良しの友達とお話ができて、美味しい給食が楽しみで、図書室では知らない物語が沢山あると、真癒ちゃんの記憶が教えてくれてます」
ほう、私の記憶。
純粋無垢な彼女は、私から借りた8年分の記憶を所々、共有できるようだ。
そういえば、そうだ。あの頃、私は学校が楽しかった、でも…。
「でも、高校は違うよ。人間関係も複雑になったし、自分で作った弁当は味気ない。まぁ、図書室は好きだけど」
「そうですか…。やはり『生きる』ということは、苦悩に苛まれるものなのですね。ご心労お察しします」
紡葵はそう言いながら、まるで私の幸を願うように瞼でお辞儀をする。思わず身体を起こした。こうも忖度されると引け目を感じる。ただ、私は、学校がめんど臭くて、歳寒と布団の誘惑に負けたのだ。優し過ぎる心遣いに、忸怩たる思いで話を切り返す。
「いやいや、なんか不幸ぶっちゃったけど、私はどっちかっていうと幸せだし。例えば…ほら、バイトしてるけど、お母さん、お小遣いだけはくれるから大好きなキノコクリームパスタはいっぱい食べれちゃうのね。
ただ、私は大人になる途中で、考えさせられることが増えてきて、ちょっとだけ人生に疲れた、みたいな?」
8歳のなりで人生とか何を言ってるんだよ、なんて思った。16歳の薄っぺらい人生論を、紡葵はうんうんと頷きながら聞いてくれる。その真っ直ぐ受け止めてくれるような雰囲気は、やはり大好きなお姉さんと重なる。
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