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就業時刻まであと10分。
事務所に足を踏み入れると、私より早くアパートを出た椎名先輩は既に自席に着いていた。
そうです。結局、昨夜先輩は私の部屋に泊まったのです。
しかも同じベッドで寝たから笑う。とはいっても、背中を向けあって、お互い限界まで端に寄って寝たのだけれど。
しかし、朝目覚めると私のお腹の上に椎名先輩の足が乗っかっていて、彼は性格だけでなく寝相も悪いということを知ってしまった。
そんなだらしない男を横目で確認しながら自分のデスクに向かっていれば、ヒソヒソと話声が聞こえてきて、その話題のメインが私であることは何となく予想出来たけれど、その後に椎名先輩の名前が出てきたから思わずドキリと心臓が跳ねた。
昨日の事は私と椎名先輩だけの秘密なはずなのに。もしかしてバレた?なんて焦ってしまう。
けれどあの人気者が、まさか私と一夜を共にするなんて誰も想像しないだろう。私も未だ信じられないし。
「(……なにあの貼り付けたような笑顔)」
椅子に腰を下ろした後、パソコンの陰からこっそりと椎名先輩を盗み見ていれば、女性陣に話しかけられて爽やかな笑顔を浮かべる横顔が視界に入った。
その笑顔が無性に腹立つけど、やっぱり綺麗な顔してるんだよなぁ。
そんなことを思いながら、彼の目から鼻、首筋まで無意識に視線を滑らせる。
私、本当にあの人に身体を許してしまったのね。
先輩をじっと見ていたら、ふと昨日の行為を思い出してしまって、すると途端に身体がゾクゾクして下腹部がきゅっと疼くものだから、私は遂に真の変態になったんじゃないかと不安になった。
そうして私がひとり悶えている間も、椎名先輩は楽しそうに女性陣と話している。
きっと昨日と服が同じことを突っ込まれているんだろうな。そして心の中でめちゃくちゃ愚痴っているに違いない。
私をスルメ女というように、あのブリッコ先輩にも変なあだ名を付けていそう。
あの自慢話しかしない先輩のことは何て呼んでいるのだろうか。
気付けばそんな事ばかりを考えていて、そうしている内にあっという間に始業時刻になってしまった。
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