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「……ねえ、ウォーレス。ラティーシャ様がバスカヴィルに来たのは、私が一旦バスカヴィルとノヴェロを往復した後なんじゃない? その時、貴方はラティーシャ様にこう言ったんでしょう。――バスカヴィルに入っても、結界は解除したままにしておけって。どんな理由をでっち上げて納得させたのかまでは分からないけど、大体こんなところでしょう?」
口早に己の見解を述べ、鋭くウォーレスを見据える。
本当に、彼はラティーシャ自身もその計画も、利用し尽くしたのだ。
その狡猾さに、うすら寒さを覚える。
じっとウォーレスの目を見つめれば、彼はふっと肩を竦めた。
「……お前は本当に、優秀な教え子だ。暗殺だけではなく、探偵の真似ごとをさせてみてもよかったかもしれんな」
「ふざけないで」
ウォーレスの戯言を、即刻一刀両断にする。
怒りを込めた息を細く吐き出し、改めて口を開く。
「姫に関しても、仮にも王族の一員だったから、真実を教えて失踪させて、最終的には始末するつもりだったんでしょう?」
その役割の一端をヴァルが担っていたことを思い出し、息苦しさを覚える。
「……今の段階で私が分かったところは、ここまで。だから、あとは教えて。さすがに、この先も自分で推理するには情報が足りないの」
目に力を込め、決してウォーレスから視線を逸らすまいと、彼を凝視する。
「貴方が、どうして革命を起こしたのかは分かった。ラティーシャ様と手を組んだのも、獣人たちと共同戦線を張った理由も、ある程度理解したつもり。でも、一つだけどうしても分からないことがあるの」
そこで一度言葉を区切り、ウォーレスを観察する。
彼は余裕の笑みを浮かべたまま、こちらを見つめ返してくるが、声は発しない。
こちらも負けじとウォーレスに視線を定めたまま、彼に疑問を投げかける。
「ねえ……貴方は、どうして私が新たな王の妃としてここにいることを、よしとするの? 今の王家をよく思っていなかったなら、その血が流れている私が王妃の座に納まるのは、貴方にとって不本意なことなんじゃないの?」
もちろん、他にも知りたいことは山ほどある。
先程、ウォーレスの行動原理を考察した結果を口にしてきたが、あれが全てだとは思っていない。
きっと、まだまだ他にも思惑が隠されているはずだ。
でも、その中で最も疑問に感じたのは、ディアナへの扱いだ。
何故、彼はディアナが新たなバスカヴィル国の王妃となることに、異を唱えないのか。
いや、そもそもどうしてウォーレスはディアナを拾ったのだろう。
王族は皆、排除するべきだとは思わなかったのか。
ディアナが彼の望む働きをしてくれると見込んだから、引き取ろうと決めたと、出会ったばかりの頃に教えてくれた。
だが、本当にそれだけなのか。
そして何より、何故自分の手元に置いていたディアナを、ヴァルの元に嫁がせたのか。
ディアナからの質問に、ウォーレスはすぐには答えなかった。
相変わらずこちらを眺めたまま、何やら考え込んでいる様子だ。
しばしの睨み合いの末に、ようやく向こうから沈黙を破ってきた。
「……ディアナ。事の真相を教える前に、少し昔話に付き合ってくれないか?」
「……昔話?」
いきなり何を言い出すのかと、訝しんで眉根を寄せたディアナに、彼は浅く首肯した。
「そうだ。――私の悲願の全貌を知るためには、話す必要があるだろうからな」
ウォーレスが何を言いたいのか、現時点では分からない。
しかし、ウォーレスの話を聞かないことには先に進めないのだから、ここは彼の気が済むまでとことん付き合うしかない。
「……分かった。なら、聞かせて」
ディアナが話を促すと、ウォーレスは一旦こちらから視線を外し、僅かな沈黙を挟んでから語り始めた。
これまでディアナが知らなかった、思惑と真相の数々を。
――この、壮大な舞台が構築されるまでの物語を。
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