Chapter7. 『VENGER―ヴァンジェ―』

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「……ねえ、ウォーレス。ラティーシャ様がバスカヴィルに来たのは、私が一旦バスカヴィルとノヴェロを往復した後なんじゃない? その時、貴方はラティーシャ様にこう言ったんでしょう。――バスカヴィルに入っても、結界は解除したままにしておけって。どんな理由をでっち上げて納得させたのかまでは分からないけど、大体こんなところでしょう?」 口早に己の見解を述べ、鋭くウォーレスを見据える。 本当に、彼はラティーシャ自身もその計画も、利用し尽くしたのだ。 その狡猾さに、うすら寒さを覚える。 じっとウォーレスの目を見つめれば、彼はふっと肩を竦めた。 「……お前は本当に、優秀な教え子だ。暗殺だけではなく、探偵の真似ごとをさせてみてもよかったかもしれんな」 「ふざけないで」 ウォーレスの戯言を、即刻一刀両断にする。 怒りを込めた息を細く吐き出し、改めて口を開く。 「姫に関しても、仮にも王族の一員だったから、真実を教えて失踪させて、最終的には始末するつもりだったんでしょう?」 その役割の一端をヴァルが担っていたことを思い出し、息苦しさを覚える。 「……今の段階で私が分かったところは、ここまで。だから、あとは教えて。さすがに、この先も自分で推理するには情報が足りないの」 目に力を込め、決してウォーレスから視線を逸らすまいと、彼を凝視する。 「貴方が、どうして革命を起こしたのかは分かった。ラティーシャ様と手を組んだのも、獣人たちと共同戦線を張った理由も、ある程度理解したつもり。でも、一つだけどうしても分からないことがあるの」 そこで一度言葉を区切り、ウォーレスを観察する。 彼は余裕の笑みを浮かべたまま、こちらを見つめ返してくるが、声は発しない。 こちらも負けじとウォーレスに視線を定めたまま、彼に疑問を投げかける。 「ねえ……貴方は、どうして私が新たな王の妃としてここにいることを、よしとするの? 今の王家をよく思っていなかったなら、その血が流れている私が王妃の座に納まるのは、貴方にとって不本意なことなんじゃないの?」 もちろん、他にも知りたいことは山ほどある。 先程、ウォーレスの行動原理を考察した結果を口にしてきたが、あれが全てだとは思っていない。 きっと、まだまだ他にも思惑が隠されているはずだ。 でも、その中で最も疑問に感じたのは、ディアナへの扱いだ。 何故、彼はディアナが新たなバスカヴィル国の王妃となることに、異を唱えないのか。 いや、そもそもどうしてウォーレスはディアナを拾ったのだろう。 王族は皆、排除するべきだとは思わなかったのか。 ディアナが彼の望む働きをしてくれると見込んだから、引き取ろうと決めたと、出会ったばかりの頃に教えてくれた。 だが、本当にそれだけなのか。 そして何より、何故自分の手元に置いていたディアナを、ヴァルの元に嫁がせたのか。 ディアナからの質問に、ウォーレスはすぐには答えなかった。 相変わらずこちらを眺めたまま、何やら考え込んでいる様子だ。 しばしの睨み合いの末に、ようやく向こうから沈黙を破ってきた。 「……ディアナ。事の真相を教える前に、少し昔話に付き合ってくれないか?」 「……昔話?」 いきなり何を言い出すのかと、訝しんで眉根を寄せたディアナに、彼は浅く首肯した。 「そうだ。――私の悲願の全貌を知るためには、話す必要があるだろうからな」 ウォーレスが何を言いたいのか、現時点では分からない。 しかし、ウォーレスの話を聞かないことには先に進めないのだから、ここは彼の気が済むまでとことん付き合うしかない。 「……分かった。なら、聞かせて」 ディアナが話を促すと、ウォーレスは一旦こちらから視線を外し、僅かな沈黙を挟んでから語り始めた。 これまでディアナが知らなかった、思惑と真相の数々を。 ――この、壮大な舞台が構築されるまでの物語を。
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