妹は悩む

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妹は悩む

 お姉様はどう言うおつもりなのかしら?  封を切った箱。その中に入っていた小瓶はテーブルの上に載っていた。その瓶と箱の中に入っていたカードを交互に眺める。白いカードにはリンゴを飲み込もうとする蛇の絵が書いてあった。   ずっと昔に滅びた帝国で、毒薬を示す記号となっていた絵だ。その事を知る人は少ない。私とお姉様は王女の嗜みとしてその記号を習ったけど、私たち二人の王女を除いては、帝国の記号文字を知るのは私たちにそれを教えてくれた学者ぐらい。それに……これはわざわざ燃やして、なかった事にできる様にカードに書いてある。  この小瓶の中身は毒薬だというの? お姉様は一体なぜ、それを私に伝えようと?  帝国の記号文字を一緒に習う時だけは、お姉様は私に優しかった。その優しさは偽りではなかったと思う。だから私はお姉様をお慕いしている。お姉様がどんなに私に辛くあたろうと、その本心は私を教え導こうとしているものだと、信じている。  でも、お姉様は本当に私をお嫌いだったのかしら?  それとも、お嫌いになったのかしら?  私がイグノお兄様の正妃になる事は、国王であるお父様が強引に進め、ほぼ決まっている。本当は第二妃の娘であるお姉様の方が相応しいと、貴族議会内でもその声が大きい事は知っていた。  でも、お父様は私のことを溺愛していて、大勢の反対を押し切ったのだ。  お姉様には、友好国である隣国の大公との縁談を用意して。  それが、お姉様を不愉快にした?  この毒は私に自死しろと、お姉様の意思なのかしら? お姉様に正妃の座を明け渡せと?  そちらの方がいいのかもしれない。イグノお兄様は私に対して優しいけど、自分のものには優しいけど、逆らう者には容赦がない。  お兄様のお母様は友好国の王女、お姉様のお母様は王国の筆頭貴族の娘でお父様の従姉妹。それにひきかえ、私のお母様は王家とはなんの繋がりもない弱小地方貴族出身。私がもし正妃になったとしても、お兄様と意見がぶつかった時に私にはなんの後ろ盾もない。  そして、お兄様と私の意見はかなり違う。幸せな結婚生活にならないって事は、始める前からわかってる。  でも、私は正妃になりたい! いいえ。権力が欲しい。  お姉様は権力に強欲になってる私に気づいていらっしゃるのかしら。そんな女は正妃には相応しくないと?  でも、私はこの国を変える力が欲しいのよ!  私は城から迎えが来るまで、王都の下町で過ごした。貧しい生活を知っている。王国はかなり歪な政情をしていることも。王妃になるのは、国を正せる力を持つことよ。  そう、私は目の前の権力を逃したくない。幼い頃に遊んだ友達の力になりたい! 貧しくともどこの誰の子供かもわからない、そんな私に親切にしてくれた人たちの力になれるなら、正妃の座だって怖くない!  私が正妃の座につけば、お姉様は手助けをしてくれると、そう思っていた。  でも、それは勝手な思い込みだったのかしら?  お姉様は……。
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