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これからやることは今までとは罪の度合いがまったく違う。もしばれた時、僕は学校にいられなくなるだろうし、仮に残れたとしても僕自身がもう学校へ行けなくなるはずだ。……でもばれるわけがない。僕だけの特別な非日常は誰にも邪魔されるものじゃない。
僕はドアを開け、女子更衣室の中へと入る。
安っぽいかごが並んでいるだけの更衣室で、僕はユキの学生鞄を見つける。彼女の着ていたシャツがかごに入っているけれど、僕はあまり物や肉体への興味が薄く、それ以上に精神的な部分に興奮を覚える人間だった。だから僕はある意味ではさらに彼女に対して、不誠実な行為をしようとしていた。
僕が鞄を開くと、そこには彼女の携帯しているダイアリーが入っていて、スマホではなく、色々なことをそれに書き込んでいるのは知っていた。
秘密を、脳の中を、覗きたい……。
そしてちょうど開いたページに「佐藤くん」という文字を見つけ、どきりとする。その続きを読もうとした僕の意識をさえぎるように、更衣室のドアが開いた。
ユキだった。まだ練習している時間のはずなのに……。
驚いた僕はその場にダイアリーを落としてしまい、僕に目を向ける彼女は無表情だ。見えているわけがない。
なのに、なんでダイアリーじゃなくて、僕をまっすぐ見る……?
さっきまでの二度のいたずらとは比べ物にならないほどの恐怖が込み上げてきて、僕はその場から逃げようと彼女の横をすり抜けて更衣室を出ようとした。……が、出る直前、顔面に痛みが走り、その後に僕はドアに顔をぶつけたのだ、と気付いた。
開いていたドアを、ユキが急に閉めたのだ。
床に仰向けに倒れた僕と、彼女の目が合う。それは僕にとって合ってはいけないものだったにも関わらず。
つまりそれは、僕の姿が間違いなく見えている、ということだから。
「ねぇ」という言葉は人生で聞いたすべての女性の声の中で、もっとも冷たく感じた。「私、さ。ずっと見えてたよ。更衣室に入って、他人の秘密覗くって……。サイテー」
と僕のお腹を思い切り、踏み付けた。
「うぐっ」
「元に戻ったら、まず私のところに来なさい。これで許される、と思わないでね」
ユキは忘れ物を取りに戻って来たようで、それだけを鞄から取り出すと、「ふん」と鼻を鳴らして、うずくまる僕の前から姿を消した。
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