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◆
夜の礼拝堂に一人の女性が居た。
礼拝堂という場所にふさわしく、ずっと何かを祈るように手を組み、瞳を閉じていた。
銀色のロングヘアが月に照らされる。
そこへ、一つの影が伸びる。汗ばむ季節だというのに黒いコートを着て、更には耳当てらしきものを付けている仮面の男──ファントムだ。
「こんにちは」
今宵は満月。
契約者の元へ降り立ち、契約を持ち掛ける。
通例の行事だった。
「あぁ、こんばんは。だったかな?」
ファントムは丁寧に言い直す。そして、女性の元へ、一足、また一足と近づいた。
「貴女、他の誰かになりたいんですよね?それなら……」
歩きながら営業トーク。
コートの懐からわざとらしく仮面を取り出し、彼女へと見せつける。
「契約を──」
交わしましょう──と続けようとした時だった。
礼拝堂の遥か天井にある鐘が、カーンカーンと音を立てる。
「何だ……?」
ファントムは天を仰いで鐘の音を気にした。
だが、大した問題ではないとすぐに、彼女の方へと向き直した。
だが、彼女の前に、音速で降り立った男が居た。
紺色のスリーピースのスーツを着こなし、不敵に笑う男──リュクレーヌだ。
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