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喧嘩になる事も、お互いに織り込み済みだ。
勿論、アドミラの元へ送られたファントムが偽物だった今、リュクレーヌが礼拝堂でファントムと戦っている事も。
「流石。なかなか、やるじゃん……でも」
「っ……!?」
ファントムは開き直り、ナイフでリュクレーヌを切りつける。
刃は肩の部分を掠った。
「僕の事を殺すことは出来ないでしょ?」
ナイフをもう一度構える。次は頭、心臓……致命傷を負わせてやるというように、ファントムは全速力で距離を詰める。
相手は不死身の化け物。
殺すことが出来ないのは分かってはいたが、戦闘不能状態に持ち込めばいいだろうと、ファントムは容赦なくリュクレーヌに襲い掛かる。
「ルーナエの躰がこんなに利用価値あるなんてね。不死身の君が殺せない人間だなんて」
リュクレーヌは逃げる事しか出来ない。
襲い掛かるナイフは何とかかわして、怪我をしても軽傷で済むようにしていた。
防戦一方。
そんな戦い方しかしない。いや、できなかった。
「ほらほら、さっきから守ってばっかりじゃん!攻撃しなよ!出来る物ならね!」
相手がルーナエだから。心はファントムに支配されていても、この躰はルーナエの物で、何よりも、ルーナエの魂が人質に捕られているのだ。
「どうせ殺せないでしょ! 」
「あぁ……俺はお前を殺せない」
「はははっ!やっぱりね!」
降参ともいえる発言を、ファントムは心底嬉しそうに嘲笑う。
だが、リュクレーヌもひとつ、ふっ、とわざとらしく微笑んだ。
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