8.スタージェンムーン

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8.スタージェンムーン

スカイブルー。 文字通り空の青色をそのまま映したような水上を、ナイフで切るかのように船は進む。 散るしぶきは雲のように白く、天と地が一体になったような世界はどこか不思議な空間だった。 船はロンドンの街から遥か南へ進み、大西洋の沖を我が物顔で遊泳していた。 まるで、海の王者である、巨大なサメのように。 「海だー!」 リュクレーヌとフランは船上デッキにて潮風を浴びながら、空色と白で彩られている景色を楽しんでいた。 汗ばむ夏という事もあり、二人共服装も軽い物になっていた。リュクレーヌに至っては、いつものスーツやコートは見る影もなく、派手な花や植物をこれまた派手な原色で彩ったシャツを着ていた。 アロハシャツだ。 この旅の為に卸売りの友人に頼み、わざわざ仕入れた。 普段の頭を使う探偵業は見る影もない。 完全に行楽モードである。 ただ、それはリュクレーヌだけであり、フランは緊張した表情をリュクレーヌに向ける。 「いいの?こんなに呑気に旅行なんてしていて」 「あぁ、いいの、いいの。ファントムも捕まったし、だいぶ楽になっただろ」 「だけどさ、街でマスカが暴れないって保証はないよ」 「大丈夫だって!それはアマラ軍の仕事だし。それに、たまには息抜きしないと、やっていけないだろ?」 「そうだけどさぁ……」 リュクレーヌの言っていることは何も矛盾していない。 ルーナ探偵事務所の仕事は乖離前のマスカの捜索だ。 ファントムが拘束されて一ヶ月経った今、乖離前のマスカは居ないはずだ。 案の定、事務所を訪れる依頼人など居るはずもなく閑古鳥が鳴いていた。
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