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フランが考え込んでいると水しぶきを上げてバシャンと飛び込むような音がした。
船が水を切るものとは違う。
飛び込んだ主はすぐさまゴムのように艶めく表面の頭を出し、姿を現した。
「おい見ろよ!イルカだぞ!かわいいなぁ」
リュクレーヌはイルカが好きなようだ。
小動物を愛でるような表情をして両腕で頬杖をつき、ご満悦だった。
「はぁ……」
一方、フランは、海底よりもよっぽど深いため息をついた。
──どうしてこんな事になってしまったのだろう?
旅行自体は楽しいものだ。
しかも、高級クルーズ船で海を渡るという豪華なものと来た。
最新の技術を駆使して作られた船の中にはプールにカジノや劇場といった娯楽施設が備わっており、出てくる料理は高級食材のオンパレード。
当然、部屋も三ツ星ホテルを彷彿とさせる、大富豪御用達といったプランだ。
つまり、一生に一度味わえるか分からないほどのバカンスだ。
決して嬉しくないわけではない。
ただ──
「今じゃなくても、よかったのに……」
ぼそり、と呟く。
リュクレーヌは声の方を振り向いた。
「何か言ったか?」
「何でもないよ」
特に責めるような言い方をされたわけではないが、楽しんでいる彼に水を差すのは申し訳ないと考え、はぐらかした。
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