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事の発端はファントム拘束から一ヶ月が経過した八月の中旬の事だった。
依頼の無い事務所で二人は読書をしたり、新聞を読んだり、時に料理や音楽と言ったそれぞれの趣味を楽しんでいた。暇な毎日に逆戻りした彼等にはそれくらいしかする事が無かった。
そんなある日。
一昨日のことだった。
事務所のデスクで新聞を読んでいたリュクレーヌは部屋の掃除をしていたフランを呼びつける。
「おーいフラン」
「何?どうしたの?」
「見ろよこれ!」
リュクレーヌは読んでいた新聞記事を指さし、フランに見せる。
「豪華客船で大西洋を一周……へぇ、旅行の案内か」
記事は豪華客船の宣伝広告だった。
ファントムとの戦いが完全に終わった日にはこんな船旅を出来るものならしたいものだ。
尤も、必要経費が有れば、の話だが。
フランは興味を示しながらも、自分には無縁の話だと思った。
むしろ、何故リュクレーヌがこの記事を見せたのか疑問でならない。
「これが、どうしたの?」
「ふふーん!じゃーーん!」
「わっ!チケット……って!えぇっ!凄いね!本物!?」
「偽物を見せてどうするんだよ。勿論本物だ!ファントムの件も一ヶ月経ったし、一緒に行かないか?」
答えは、旅行へのお誘いだった。
資産家や政治家といった富豪しか行けないような船旅のチケットを、依頼のない自称名探偵のリュクレーヌが持っている。
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