8.スタージェンムーン

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良い知らせのはずなのに、先ほどからフランは困惑するような表情しか見せない。 不審に思い、リュクレーヌは単刀直入に訊いた。 「どうしたんだよ。なんでそこまで渋るんだ?俺達一生かかっても行けないような旅だぞ?」 「いや、リュクレーヌ昨日の新聞で見てないの?」 「昨日?」 フランは昨日の新聞を持ち出して、デスクに広げた。 ファントム拘束後、マスカへの警鐘を鳴らす記事は随分と小さくなり、それよりも大きく、一面には痛ましい事故の記事が載っていた。見出しには「豪華客船、沈没!」とこれまた大きく書かれていた。 「豪華客船の沈没事故があったばかりなんだよ」 「あー……」 「縁起悪くないかなって……」 豪華客船の沈没事故直後に豪華客船の旅のお誘い。 なるほど、躊躇するはずだ。もしも、自分達の乗る船も沈没してしまったなら? 陸から遥か離れた大海原に身を投げ出されるような事になれば、命は無いだろう。 だが、リュクレーヌは自信満々に胸を叩く。 「大丈夫だって!俺は死なない」 「リュクレーヌはマスカだから死なないかもしれないけど、僕は人間だから死ぬの!」 「だからだよ」 「え?」 「俺が居ればお前も死なない。そうだろ?」 口元をにっ、と上げてリュクレーヌはフランの方を見た。 船が沈没するような事があったとしても、リュクレーヌが居ればフランを護ることができる。 リュクレーヌには失う命など無い。 何も怖いことなどないのだ。 「それは……そうだね、確かに」 フランは頷く。するとリュクレーヌやっと許しを得た喜び大きく手を叩いた。 「じゃあ決まり!出発は明後日だから!前日に眠れないなんて事にならないように!」 「うぅん……なんかうまく丸め込まれた気がする」 フランの不満も聞かず、リュクレーヌはそそくさと旅行鞄を取り出して旅支度をした。  
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