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二人は、ホールへと向かった。
ホールはデッキから階段をずっと降りたフロアにある。
カジノやビリヤードと共に、娯楽施設は全部最下階のフロアに位置した。
階段を降りている途中、ぐらりと、大きく揺れる船に些か不安を覚えたが、無事、二人はホールへと足を踏み入れる事が出来た。
開演までは少しだけ時間があり、座席も自由だった。
幸い、席に空きが多くみられ、二人は絶好のロケーションでショーを楽しめる席に腰を下ろした。
辺りを見渡すと、軽食を楽しむ者もいて、以前事件で訪れたオペラ座のようなお堅い雰囲気の物では無い。
開演時間になると、幕が上がる。
舞台にスポットライトが当てられて、ショーが始まった。
ショーの内容はオペラにサーカスの要素を混ぜ、庶民向けに改編したような、やや大衆的なものだった。
「あー―――楽しかった!」
リュクレーヌは随分と楽しんでいたようだが、フランは芝居を集中してゆっくり楽しみたく、周りの笑い声などが耳障りで堪らなかったようだ。
「フラン、どうした?浮かない顔して」
「うーん、ちょっと思っていたのと違っていて……」
頬を掻きながらフランは困惑する。
正直に感想を口にしてから気づいてしまった。
気を遣わせて申し訳ないと。
取り繕うように「あっ、でも気にしないで!」と言う。
「そっか。次何か別の所行くか?」
「そうだね。リュクレーヌはどこ行きたい?」
先ほどはフランが自分の行きたい場所を指定した。こんどはリュクレーヌに選ばせてあげようと、フランは尋ねる。すると、リュクレーヌは瞳と白い歯をきらりと輝かせる。
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