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確かに、いかにもバカンスを満喫しているといった格好の若い男が「僕は名探偵です」と言ったところで、説得力はないだろう。
スタッフの半分当たり前とも言える態度にフランも、ため息をついて、リュクレーヌに耳打ちをした。
「リュクレーヌ……好き放題言われているよ?」
「名刺とか作ったほうがいいかもな……」
リュクレーヌもやれやれといった様子で軽口を叩く。
すると、発見者の青年がリュクレーヌの方に声をかける。
「それで、探偵さん。船長を殺したのは誰なんですか!」
「焦らないで……死因は見たところ、左胸をナイフで刺されて死亡……」
死体に触らないように、顔を寄せてよく観察する。
胸に刺さって輝くナイフは、見覚えがあるものだった。
リュクレーヌは思わず「あっ!」と声を漏らす。
「料理用のナイフだ!」
「リュクレーヌのナイフが足りなかったのは……もしかして!」
その時、フランの言葉に耳を傾けた女性が振り返る。
一つに結ばれた短めの茶色いポニーテールが揺れ、疑問を抱いた表情が向いた。
「えっ?ナイフが足りなかった?」
「えぇ、僕のナイフだけ、一本足りなかったんです。えぇと……貴方は?」
「メシス・サティアー。レストランのスタッフです。ナイフが足りなかったというのはおかしいです!私、ちゃんと確認しました!」
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