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呼び出されたディニーは終止不機嫌だった。
それだけではない、彼が登場するや否や、スタッフたちは疑いの目を向け、下手をすれば乱闘に発展するのではないというほどに空気はひりついていた。
これでは埒が明かない。
そこでリュクレーヌは一つ、最も確実で安全な提案をした。
「僕とフランが、一晩彼を監視しましょう」
「えっ?」
リュクレーヌ以外の全員が目を丸くした。
それはフランもだった。
「だって、そうしておけば、彼は誰の事も殺せないでしょう?」
「それはそうだけど……」
「じゃあ、決まりだな!フラン。そのまま銃は持っとけよ。何が起きるかわからないからな」
「う、うん……」
そういった事情で、リュクレーヌとフランはディニーの監視をする事になったのだ。
只今の時刻は午後十時過ぎ。
街ではスモッグに隠れる事になる満天の星空が煌々としていた。
二人は客室の外の廊下をディニーと歩く。
大柄の為歩幅は大きいがのしのしとゆっくりした歩みにテンポを合わせる。
やはりこの旅でのリュクレーヌはどこか強引だとフランはため息をついた。
ため息はうつるように、もう一つ吐かれる。
その主はディニーだった。
「全く、何故私が疑われなきゃならんのだ」
「貴方の部屋から証拠が出てしまったからです」
「証拠?」
「船長室の鍵です」
「そんなもの……真犯人が仕込んだに決まっているだろう」
「誰もそんな事できないかと……」
「あぁ……まぁ確かにその線はあるかもしれませんね……おっと!」
「うわっ!」
ぐらり。
客船は大きく揺れる。
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