8.スタージェンムーン

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「こちらです」 そう言って、案内されたのは客室とはずいぶん離れた最下階の古びたドアの前だった。 黄ばんだドアプレートには茶色い字で「リネン室」と書かれていた。 だが、リネン室にしては不衛生な見た目であり、それに遺体を安置する霊安室に使われている。 恐らく、ここは昔リネン室として使われていて、今は使われていない空き部屋だったのだろう。 「随分と簡素な造りだな」 「何せ、仮設なので」 大勢の人間が集まる豪華客船で殺人事件など早々に起きない。 事件後、霊安室は突発的に作られた。 「まぁいいや。入るぞ。フラン、顔が青いけど大丈夫か」 「だ、大丈夫……ふぅ……」 フランが深く息を吐いて、ようやく覚悟を決めた矢先に、木製の古びたドアが開かれる。 光の入らない暗い空間に、廊下の照明が入り、室内をぼんやりと照らす。
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