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「ひどいよ、僕たちたった300ポンドだって」
フランは抗議した。人二人の命が300ポンドほどで取引されるなんて、と。
それも、貴重な出品だと煽った挙句、この金額であれば、文句の一つも言いたくなる。
尤も、その金はリュクレーヌとフランには一銭も入らないのだが。
リュクレーヌは俯きながらぽつりと呟いた。
「……ポンドなんて誰も言っていないぞ」
「えっ!じゃあ、300シリング?」
リュクレーヌは首を左右に振る。
「ちがう。300人……正確には300体だな」
「どういう事?」
「見てみろ、あの競り落とした男も、他の客も金を持っている気配はない」
「本当だ」
フランは客席の方に目を向ける。
確かに、客たちは、綺麗な身なりをしているわけでもなく、むしろ子汚い格好をしていた。
300ポンドなんて大金があるのであれば、洋服の一着でも新調するだろう。
「ただ、背後に大量の……」
リュクレーヌが指を指しながら言いかけたところでフランは気づく。
彼らの背後に、動かない人形のようなものがある事に。
そして、それは人形なんかではなく──
「死体をお金の代わりにしているって事!?」
「その通り!」
司会者のマスカが嬉々として言う。
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