9.ハーベストムーン

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「この銃は乖離前のマスカを強制的に乖離させる能力がある。この世にただ一つの銃だ」 「おお!」 「これを使えば、誰がマスカか分かるわけか!」 群衆は更に目を輝かせる。マスカを見分ける唯一の武器であるフランのスチームパンク銃が目の前にある。 自分の周りにいるかもしれないマスカを、これさえあれば見分けられるのだ。 藁にもすがる思いで、彼らは銃に縋るのだろう。だが、これを使うリスクを彼らはまだ知らない。 「ただし」 リュクレーヌが前置きをして、フランも見た事のない冷酷な笑顔でリスクを告げる。 「この銃を人間に撃ってしまえば、撃たれた人間は死ぬ」 フランのスチームパンク銃は、文字通り銃だ。生身の人間が弾丸をくらえば死んでしまう。 「死っ……!?」 リュクレーヌから冷たく告げられたリスクを前にあれほどまで輝いていた群衆の表情は、一気に青ざめる。 「いいか、自分たちの安心の為に、無実かもしれない身内を殺しても構わない奴だけ残れ」 畳みかける様に、リュクレーヌは群衆に言い放った。 その場に残る者がいれば、その人は自分の安心の為に身内の命すら差し出してしまう程の利己的な人物なのだろう。 「無茶苦茶だ!」 「なんだよ!一歩間違えばお前ら人殺しじゃないか!」 「あぁ!マスカは考える事が恐ろしい!」 案の定、残る者は誰一人いなかった。 皆、口々に捨て台詞を吐いて、中には不死身のマスカであるリュクレーヌに対する侮辱ともとれる言葉をぶつけて事務所を後にした。
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