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嵐のような来客が去っていき、再び事務所は二人きりになった。
リュクレーヌは神妙な面持ちで俯いていた。
先ほど群衆に投げつけられた言葉を気にしているのか?とフランは恐る恐るリュクレーヌに声をかける。
すると、リュクレーヌは視線をフランの方へゆらりと向けると、「大丈夫」と言うように微笑んだ。
「……俺達は、探偵だよな」
ぽつり、と確かめるように小さく呟く。
不安という感情だけで推理などできない。
一個人の安心の為に、本来生きるべき命を消すのであれば本末転倒だろう。
当てずっぽうでスチームパンク銃を使って、フランを殺人者にする訳にもいかない。
だとすれば、先程の依頼は受けられない。探偵として当然だ。
「うん……そうだね」
フランはリュクレーヌの心中を察していた。
自分を殺人者にする訳にはいかないんだという思いも。
暫く沈黙が続いて、湿っぽい雰囲気になってしまう。
どうも、重たい空気に耐えられないリュクレーヌは、すぐさま顔を上げた。
「それにしても、どうしてここまで大量の依頼人が来たものか……俺たちが船旅に行っている間、何かあったのか?」
「うーん……あ!新聞見たら何か分かるかもよ!」
「おお!確かに!」
リュクレーヌは拳を手のひらに叩いて、船旅中に溜まっていた新聞を取り出した。
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