9.ハーベストムーン

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ピクニックの会場は、折角だし、とロンドンを象徴するビックベンの屋根の上にした。 マスカであるリュクレーヌの手にかかればあっという間に到着する。 高所恐怖症という事を忘れ、昇ってから後悔したが、それでも景色は良い。ロンドンの街を一望して、まるで自分たちがこの街を見守っているような気分になれる。 「はい、これ」 「サンキュ」 バスケットからサンドウィッチを取り出す。 手軽に食べられることもあり、忙しい時は定番のメニューではあるが今日のものは少し豪勢だ。 白身魚のフリットに市場で購入した玉ねぎとピクルスが刻まれたタルタルソース、隠し味のマスタードがいい仕事をしている。 「自分で言うのもなんだけど、美味しいね。」 「外で食べるとまた格別だな。景色もいいし、仕事終わりというのもいい」 「まだもう一仕事あるでしょ」 アップルティーを飲みながら、「そうだったな」とリュクレーヌは頷く。 この街に蔓延っているマスカとファントムの協力者は人々に恐怖と不安を植え付けた。 心なしか、灯りの数も少なくなった気がする。それだけ、街に活気がなくなったという事だろう。 「俺たちが旅に行ってる間に随分とこの街も変わったな」 「ほんの数日のはずだったんだけどね。でも、随分と大人しくなったよね」 「皆、マスカを怖がって家からも出られないんだろ」
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