10.ハンターズムーン

16/62
前へ
/743ページ
次へ
「忌子だと言われ、すぐに殺せと言われたそうだが、母は私を護ってくれた」 「お父様は?」 「父親は……知らないな。一度も会った事が無い。生まれてから私の味方は母だけだった」 父は居ない。いや、村人たちに殺されたのかもしない。ブラーチは母と二人で生活をしていた。 母は──母だけは唯一自分の味方で居てくれた。他人と違う見た目のせいで友人も出来ないままでいた自分に優しくしてくれたのは母だけだった。 「それが、災いしたのかもしれない。私が八歳だった時のある日、母が村の男に襲われたんだ」 勿論、そんな母親の事をよく思わない村人もいた。だからこそ、事件が起きてしまった。 村の男は、ブラーチの家に襲撃し、自分の目の前で、母親を嬲ろうとしていた。母は必死で叫んでいた。 外に聞こえているはずの悲鳴なのに、誰一人として助けに来ない。周りの村人は皆、聞こえないふりをしていた。 だとしたら、この悲鳴は、母の助けは自分に向けられたものじゃないか── 「助けを求める母に、『今度は自分が助けないと』と思ってな。私は、禁忌を犯したんだ」 「禁忌?」 「魔術を使って、男を殺してしまったんだよ。もちろん、殺す気などは無かった。追い返してやろうと思っただけだったのに、制御が効かなかったんだろうな」 母を助けるためだった。そのはずだったのに──ブラーチが初めて使った魔術は村人を殺めてしまったのだ。
/743ページ

最初のコメントを投稿しよう!

106人が本棚に入れています
本棚に追加