10.ハンターズムーン

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否定の言葉と共に、クレアは機関銃を下ろした。 そして、団服に誇らしく並んでいた勲章のバッチを全て引きちぎり、床にばらまく。 一体、何が起こっているのか、とブラーチは狼狽えた。 「私もアマラ軍ガーディアンとしてじゃなくて、クレア・スティノモスとして生きる事を選ぶわ」 「クレア……」 「ここから先にあるのはガーディアンとしてじゃなく、私の個人的な感情だけよ」 銃口の代わりにエメラルド色の双眼が向けられる。 「私は貴方を殺したくない。それに私を虐げる人の為に戦いたくない。だから、私はガーディアンの称号も捨てるし、アマラ軍も辞める。勝手でしょ?でもね、それが本心なの。私は私の守りたい物の為に戦い続けるわ」 人を守るのに、称号なんて必要ない。称号のせいで、所属のせいで酷い目に遭うのなら、捨てればいい。 クレアは、ブラーチと同じように自分の所属を捨てる事にした。 地位も名誉も今まで集めていた勲章も全てを捨てて、アマラ軍としてではなく一人のアマラとして生きていく。それがクレアの選んだ道だった。 「どうして、そこまで」 「決まっているじゃない。貴方を、愛しているからよ」 もう一度クレアは笑う。先ほどの威圧感のある笑顔ではなく、優しく慈愛に溢れたものだ 「……そんな事を言われたのは、生まれて初めてだ」 ブラーチは不自然な笑顔でクレアに言う。そう、目尻から、温かい想いが零れ落ちないように。
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