10.ハンターズムーン

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「俺たちは、何のために……信じていたんだ」 「ふざけるな!降りてこいインチキ野郎!」 「金返せ!ペテン師!」 「畜生!ネオン新聞でこの礼拝堂燃やしてやる!」 これに当然、信者の怒りは爆発。黙って話を聞いているだけの信者たちも拳を上げ、今度はこの茶番劇の張本人であるミーナへと矛先は移っていった。 「……れ」 「何だ?」 リュクレーヌが、俯いて声を漏らしたミーナの方を伺う。 すると、彼女は般若のように怒り狂っているような顔を上げた。 「黙れ!愚かな愚民ども!私を誰と思っている!」 ミーナは信者の方へと、屋根の上から叫ぶ。そこには、かつての慈愛に満ちた声色は皆無であった。 とうとう本性を現したな、と思いながら、リュクレーヌは睨みつけた。 「せっかくお前たちを、正しい人間へと進化させようとしていたというのに裏切ると言うのか!」 「正しい人間……?」 「そうよ、テレーノ教は戒律を守れる清く正しい人間だけの世界を作る。戒律を守れない正しくない人間は皆、ゴーレムになるのよ」 戒律を守れない者はゴーレムに。夜の礼拝堂で言っていた通りだった。 殺された死体はゴーレム──即ちマスカの材料として使われたのだろう。生まれたゴーレムは主人に絶対服従。 決められたルールを守れない、正しくない人間は土人形として、絶対服従を強いられていた。これで、戒律を破る者はいなくなる。 それが、ミーナの求めた正しい者だけの世界──テレーノ教の理想郷だった。
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