10.ハンターズムーン

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けれども、神に背き不貞をはたらいた人間はいずれ天罰が当たるはず。そう、思っていた。いや、そう思っていないとやっていけなかった。 数年後、結婚した彼女の知らせを教会から聞いた。きっと、何か悪い知らせに違いないとミーナは思った。 が、知らせと言うのは二人目の子供を授かり、幸せな家庭を築いているという内容だった。 ──どうして?私はこんなに苦労しているというのに 手紙に同封されていた写真に写る彼女たちの幸せそうな笑顔に、ミーナの感情はぐちゃぐちゃになっていた。 期待していた。神を裏切った彼女が裁かれるのを。 神はどうして彼女を裁かなかったのか、私を救わなかったのか。 あぁ、そうか。それならばいっそ── 壊れた心は一つの結論へと帰結する。 ──真面目に生きてきた人間だけの世界を作ればいい 彼女の心は、正しさに蝕まれていた。 「こうして、私はテレーノ教を作ったわ。真面目に清く正しく生きた人間が幸せになれないなんておかしいでしょう?」 動機の全てを白状したミーナは不気味に笑いながらクソ真面目に問う。 フランは暫く何も言えないままだった。だが、リュクレーヌはもう一度強い目線でミーナを睨みつけると、口を開いた。 「……なぁ、そんなに正しい事って大切か?」 「え?」 「正しさの為に、自由を失って、好きなことも出来ない。やらなければならない事しかやらされない。そんな世界でみんなは幸せか?それは本当に正しい事なのか?」 リュクレーヌは問う。全てを失ってまで正しさに拘ったミーナの人生は正しかったのかと。
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