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五月十日
兄さんは勉強にハマったみたい。
ゲームだと思わせる作戦は見事に成功したようだ。
これで、兄さんが母さんに怒られているところを見なくて済むと思うと少し安心した。
相変わらず、僕はチェスで兄さんには勝てないままだけど、兄さんが楽しそうならそれでいいや。
五月二十七日
今月もテストがあった。
今回はよかった。百点満点だ。
母さんに見せるととても喜んでくれた。
素直に嬉しかった。
一生懸命勉強した甲斐があった。
まぁ、その代わりこの日記は暫く放置になっちゃって父さんには少し申し訳ない。
兄さんも今回は成績が良かったようだ、先月のようなばつの悪い思いを孕んだような表情ではなく、今にも口笛を吹きながらスキップでもしそうにご機嫌な調子で家に帰ってくる。
そして帰って早々鞄から返却された答案用紙を取り出し、いの一番に母さんに駆け寄った。
「聞いてくれよ!俺今回九十点!すごくね!?」
母さんは目を丸くして「まぁ!」と大声をあげる。
しかし、その行動の含む意味は前回とは真逆のものだ。
母さんは兄さんをぎゅうっと抱きしめて
「すごいじゃない!どうしたの!」
と言う。
「俺だってやれば出来るんだよ。」
と兄さんは鼻の下を指で掻いた。
嬉しかった。
兄さんが褒められていて、嫉妬なんかは無かった。
僕も母さんには褒められたし。
そうだっていうのに、少し複雑だった。
何だろうこの感情は。
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