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だが、リュクレーヌにはルーナエの言わんとしている事が分かっていた。理由を訊かれる前に答えた。
もう二度と、自分の人生を捨てて、誰かになりたいなどと言う人間の望みが叶わないように。
自分の人生を最後まで歩める世界になるように。それがリュクレーヌの願いだった。
「……分かった」
ルーナエはこくりと頷く。
納得してもらえたようでリュクレーヌは安心し、柔らかく微笑んだ。
しかし、上がった口角はみるみるうちに下がり、憂を帯びた表情へと変わっていく。
「俺も、悪かったよ」
罪悪感。懺悔の言葉をリュクレーヌは口にした。
ルーナエは随分と驚いた。
「お前の気持ちをもっと考えられたら──」
「それは違う!」
ルーナエがリュクレーヌの言葉を遮るように叫んだ。
「人の気持ちなんて、目に見える物じゃない!絶対に分かるはずないんだ!だからこそ伝えなきゃいけなかったんだ!」
他人の心は見えない。絶対に分からないものだからこそ、悪魔に付け込まれるまで抱え込んではいけなかった。
気づいてもらう事を待つ前に伝えていればよかった。たった一人の兄弟なのだから。
「あの時は、兄さんが羨ましくて、妬ましいと思っていた。けど違った。分かったんだよ、僕は、兄さんに憧れていた!」
「ルーナエ……」
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