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リュクレーヌ──ルーメンは弟ルーナエを大切に思っていたから、あの時マスカになる決断をしたのだろう。
機転を利かせて、自分自身になれば、誰も傷つけないで済むという最善の方法を選んで。
もっとも、リュクレーヌ自身は死にたくても死ねない怪物へとなってしまったのが。
フランは困惑しながらも、確かにその通りだと頷く。
「ねぇフラン。これほどに想われている僕が羨ましいだろう?悔しくないかい?この一年間傍に居たのに、兄さんはずっと僕しか見ていなかったんだ。じゃあ、君のやっていたことは何だったんだろうね?」
「……」
「でも安心して、今度は君が兄さんの為にマスカになればいい。そこまですれば、想いは伝わるよ!」
ルーナエは大げさに両手を広げ演説をするようにフランに言う。
「さぁ!ルーナエが羨ましいと思え!願え!リュクレーヌと血のつながった本当の弟になりたいと!」
見開かれた双眼がぎょろりとフランを捕らえる様に見つめる。
その視線は、フランの目に焼き付いた。
強く叫ばれる声は、洗脳するための呪文のようでフランの耳から脳にまとわりつくように聞こえた。
声と視線。
ルーナエから向けられるそのすべてが自分の感覚を融かす様だ。
──あぁ、もう、おかしくなりそう。
この闇に酔ってしまいそうだ──
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