12.コールドムーン

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「それなら死んだ人間の魂を食えばよかっただろう!わざわざこんな残虐な方法を──」 「フレンチのフルコース」 会話の返事とは思えない言葉をファントムは返す。 「えっ?」 「ブラウニー、玉子サンド、スモークサーモンのシーザーサラダ、鶏肉のフルコース」 「何だ?」 「ミネストローネ、キャビア、残り物のサンドウィッチ、カボチャのシチュー、牛と羊のタン」 つらつらと料理名をファントムは羅列した。 その料理がこれまでフランが作ってきたものだと気づいた時、ファントムは肩をすくめる。 「人間が料理をするのと同じさ。ボクだって魂を美味しく食べたい。哀しみや恨みのスパイスをかけて、怒りや憎悪の炎でこんがりと炙った魂のほうが美味しそうだろ?」 「屑が好きだって言ったのは……もしかして」 「そうだよ。ボクの主食は人間の魂だけど、好物は妬みや悲しみや怒りにまみれた屑な人間の魂だ!だったら悲劇を生んで魂を調理すればいい!そのために僕はマスカを作ったんだよ」 ファントムにとって、マスカは魂を美味しくしてくれる調理器具のようなものだった。 リュクレーヌは目を見開き震えた。たった、それだけの為に、弟の頭脳や心は弄ばれたのかと、絶望した。 「そんな事の為に……ルーナエを」 「あぁ、そうそう。ルーナエの魂も美味しかったよ」 舌なめずりをしながらファントムが冷酷に告げる。弟の魂の味を。
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